イランの元大統領であり、護憲評議会の議長であるラフサンジャニ師は、宗教的権威としても、金持ちとしても、世界的な著名人としても、よく知られている人物だ。彼の老獪な政治手腕が、ここに来てイラン国内の混乱を、止めるかも知れない。
大統領選挙以来これまで、ラフサンジャニ師は反政府派を、擁護する立場に回っていた。つまり、ムサヴィ氏らを支持していたということだ。しかし、ここに来て、彼はハメネイ師の顔を立てる、発言をし始めた。
ラフサンジャニ師は「ハメネイ師の意見に従い、国民は意思を統一すべきだ。」と言い出したのだ。それが何を意味しているのかを、考える必要がありそうだ。
考えられることは、彼が支援したムサヴィ氏やカロウビ師が、場合によっては逮捕され、裁判にかけられそうな雰囲気に、なってきたことが挙げられよう。イランの強硬派のなかから、問題の中心人物たちを捕まえて、取り調べろという声が、高まってきているからだ。現在の混乱状態が続くことは、イランの将来にとって、決して都合のいいことではあるまい。
また、これまで逮捕された者のなかから、外国の関与を語る者が、出てきていることも、ラフサンジャニ師にとっては、気がかりであろう。拷問によるのか、あるいは死刑という不安からか、一部の逮捕者が、今回の反政府の動きに、イギリスやアメリカの資金が、流れていたことを、話し始めているというのだ。しかし、この点については、どうもすっきりしない。
もうひとつ考えられることは、ハメネイ師がラフサンジャニ師に対し、ムサヴィ氏やカロウビ師を逮捕しない代わりに、ラフサンジャニ師に対し、政府側と反政府側との仲介を、依頼したのではないかということだ。
これまでも述べてきたように、今回のイラン国民の分裂は、それだけではなく、イランの神権体制そのものを、分裂と危機に追い込んでいるからだ。そのことは、ハメネイ師にとってもラフサンジャニ師にとっても、決して都合のいいことではあるまい。
ラフサンジャニ師はこのハメネイ師の申し入れを受け(?)善意の仲介者としての立場を、得るということであろうか。いずれが正しいかは別に、ここに来て、イランの国内政治の流れに、変化が生まれたことは確かであろう。それでもイラン国民の、神権体制離れは止まるまい。