このところ「スンニー派とシーア派の対立」という話題が、日本のマスコミでも、よく登場するようになってきている。果たして、実際にスンニー派とシーア派は、同じイスラム教でありながら、対立関係にあるのであろうか。
私が学生だった頃の、1960年代後半から70年代の前半の頃は、スンニー派とシーア派の区別はあるものの、あまり露骨な対立関係には、無かったような気がする。
しかし、イラクにアメリカ軍が軍事侵攻し、サダム体制が打倒されて以来、イラク国内のスンニー派とシーア派の対立ということが、大きな話題になってきている。「スンニー派がシーア派のモスクを爆弾で破壊した、このため沢山の死傷者がシーア派のなかから出た。」
「シーア派のテロでスンニー派の市場が爆破され、多数の死傷者が出た。」といった具合だ。もちろん、これ以外にもイラク政府内部で、スンニー派対シーア派の対立、というニュースが伝わってきている。
つまり、以前がどうであったかは別に、現在では、スンニー派対シーア派の対立関係が、現存するということだ。もちろん、一般的に言われているスンニー派のテロや、シーア派によるテロの裏には、全く別の組織や国家が介在している、可能性も否定できない。
現在の段階で私が懸念している、スンニー派とシーア派の敵対関係は、イラクとイエメンで明らかだ。イラクではスンニー派、シーア派それぞれに、外国の援助を受けて、相手側に対するテロを、繰り返しているようだ。
述べるまでもなく、シーア派の一部勢力に対し、イランが直接間接支援を送っている。最近も、大量のイラン製兵器武器が、イラク国内で発見されている。イラクの大物では、ハキーム師やサドル師が、イランとの強い関係を、構築しているようだ。
他方、スンニー派に対しては、サウジアラビアの資金が流れ込むと同時に、サウジアラビア人が、イラクでのテロ活動に参加している、という情報も伝わってきている。そのことに激怒したイラクの国会議員が、サウジアラビアのイラクへの関与を、激しく非難してもいる。
このサウジアラビアとイランの、イラクに対する関与は、何時の日にか、サウジアラビアとイランとの、直接的な武力衝突に、発展していくのではないかと懸念される。サウジアラビアでは石油地帯の住民のほとんどが、シーア派国民であることから、イランが関与してきたり、湾岸地域でのイランの影響が拡大することは、きわめて危険なことでもあり、放置しておくわけにはいかない。
イラクだけではなく、イエメンでも同様の、スンニー派対シーア派の対立が、起こっている。イエメン政府はスンニー派だが、アルホウシ部族がこれに対抗しており、同部族はシーア派の一派ザイデイ派だ。このため、イランがイエメン内紛に、関与してくるのではないか、ということをすでに書いたが、最近になって、イエメン政府がイランのアルホウシ掃討作戦への、イランの関与を、非難し始めている。
他方、イランのマスコミは、サウジアラビアがイエメン政府を支援し、アルホウシ部族掃討作戦に、加担していると伝えている。つまり、イラク同様に、イエメンでも、スンニー派対シーア派の、敵対的構造が、出来上がっているということだ。
現在のところ、あまり表面化してはいないが、イラクやイエメンで起こっている、スンニー派対シーア派の敵対関係を見ていると、そこにはサウジアラビアとイランとの緊張した関係が、浮き上がってくるのだ。
このスンニー派のリーダー国サウジアラビアと、シーア派のリーダー国イランとの敵対関係は、何時までも代理戦争で、収まっているとは限るまい。早晩、相手国に対する、相手国領土内でのテロ活動が、頻発してくるのではないかと懸念される。