イエメン領内には、1962年までイスラム国家が存在した。それは、イスラム教シーア派ザイデイ派の、アルホウシ部族からなる国家であり、イエメン領土内のサウジアラビアとの国境に近い、北部地域を占めていた。
しかし、その後、北イエメンが成立する段階で、このシーア派国家は滅亡した。とはいえ、サアダを中心とするイエメン北部には、シーア派の部族が居住し、中央政府の手の付けられない状態にあった。
これまでも、この地方部族とイエメン政府との間では、何度となく小競り合いが起こってきたが、今回は本格的な戦闘が展開している。それは、何らかの理由によるものであると思われる。
イエメン軍は1週間ほど前から、北部のサアダを中心に、空爆を開始してきている。それに続き、今では白兵戦が始まっている、という情報がある。つまり、イエメン軍兵士とサアダの部族とが、真正面から対峙して、撃ち合っているということだ。
イエメン北部の部族は、アブドルマリク・アルホウシ氏を中心とする、ザイデイ派イスラム教徒であり、この部族が全滅することは、イラン政府にとっては、大問題であろう。
イランの他に、シーア派が国家の権力を握っているところは無いが、幾つかの国では、シーア派が国民人口の半数に近いか、半数を超えている国も存在する。たとえば、バハレーンがその好例であろう。したがって、イランとすれば、同国は12イマーム派だが、たとえザイデイ派であれ、シーア派勢力を支援しなければならない、と考えるであろう。
今回のイエメンでの戦闘のニュースを見ていると、さすがにイランから発出されるニュースが、他の国々からよりも多いような気がする。
アブドルマリク・アルホウシ氏を中心とするアルホウシ派は、今回の戦闘はサウジアラビアが計画し、支援しているものだと主張している。サウジアラビアは以前にも、イエメン政府に働きかけ、アルホウシ一派に対する軍事攻撃を、2004年に行っているということだ。
アルホウシ派は今回の戦闘で、イエメン政府軍がリン弾を使用し、民間人も攻撃していると非難しているが、イエメン政府は自国にはリン弾は存在しない、と否定している。(今回の戦闘による離散避難民の数は、17000人という報告がある)
現在イエメンで起こっている、イエメン軍とアルホウシ派の武力衝突は、あるいはその裏に、サウジアラビア(スンニー派代表国)とイラン(シーア派代表国)が、存在しているのかもしれない。そうであるとすれば、この戦闘はもう少し長引くのかもしれない。