イランの最高権威者ハメネイ師にあせり?

2009年8月16日

 最近のイラン国内ニュースを見ていると、イランの最高権威者であるハメネイ師に、焦りが感じられるのだが、実際はどうなのであろうか。

 ハメネイ師が故ホメイニ氏の寵愛を受けて、二階級特進でイランの最高権威者に就任したが、多くのイスラム法学者の間では、彼がイスラム法学の学者としては、未熟であることが知られていた。

 しかし、彼は革命防衛隊やその下部機関であるバシジといった、武力集団に守られ、安泰にその任務を果たしてこられた。何処の国の国民も、国家の暴力の前には弱いからだ。

 ハメネイ師を取り囲むイラン国民の情況は、ある種の国王と下僕といった感じさえ見受けられた。そのイスラム神権国家の構造を、大きく不安定なものにしたのが、6月に実施された選挙だった。

 イラン国民の多くが、ムサビ氏を支持し、現役の大統領であるアハマド・ネジャド氏は、政府発表によれば60パーセント以上の得票をしたものの、歓迎されなかった。

 国民の選挙結果に対する不満が爆発し、デモが連続して起こると、政府は力によって、これを鎮圧しようとした。何千人というデモ参加者が逮捕され、そのうちの何十人あるいは何百人もが、刑務所で拷問を受け、死亡する者すら出たのだ。

 問題は、これら収監者の中から、レイプされる者が出たことだ。そのレイプの対象は、女性ばかりではなく男性も含まれていた。男色の存在する、イランならではの、出来事であろうか。

 このレイプの情報は、大統領候補だったカロウビ師によって、公表されたのだが、その波紋は小さくなかったのであろう。ラリジャニ国会議長が「レイプ事件は無かった」と発表したが、それを信じる国民は多くなかろう。

 このラリジャニ国会議長の功績を讃えたのか、ハメネイ師はラリジャニ国会議長の弟を、イラン司法機関のトップに指名した。これは大きな意味のある、指名であろうと思われる。

 アハマド・ネジャド大統領が大統領選挙の後、自分の親族を副大統領に指名したとき、ハメネイ師はこれを退けているからだ。もちろん、アハマド・ネジャド大統領が副大統領にしようとした人物と、ラリジャニ国会議長の弟とは、人物的に大きな差があることも、考えられるのだが。

 今回のハメネイ師の、ラリジャニ国会議長の弟に対する、司法機関のトップへの起用は、これまでも存在した、ハメネイ師とアハマド・ネジャド大統領との、溝を一層広げるのではないか。

 そのことは、イランの神権体制が選挙をめぐって、二つに分裂してしまったいま、ハメネイ師とアハマド・ネジャド大統領からなる、主流派の結束関係すらも、分裂させることになるかもしれない。そうなれば、革命防衛隊やバシジといった武力集団が、ハメネイ師とアハマド・ネジャド大統領の、どちら側につくのかということが、問題になってこよう。

 アハマド・ネジャド大統領は、革命防衛隊の出身だといわれており、その点だけを考えれば、革命防衛隊がアハマド・ネジャド大統領を支持する、可能性の方が大きい、と言えるのではないか。そこで、ハメネイ師が唯一自身の立場を堅持できるのは、イスラムの最高指導者としての地位を、フルに活用することであろう。

 イスラムの最高指導者としての地位を、フルに活用する方法は、今回のラリジャニ国会議長の弟を、司法のトップに起用したように、国家の要職に自分の味方を、起用していくということであろう。

しかし、いまハメネイ師の上に、新たな難問が起こっている。それは、イランの識者の間から「ハメネイ師はイスラム最高権威者にふさわしくない」という意見が、出てきていることだ。

 このハメネイ師失格の意見は、いまネットを通じて、イラン国内に広がっているのだ。このハメネイ師のイスラム法学者としての、権威に対する挑戦は、選挙結果に不満を抱いたイラン国民の間で、今後、相当の支持を広げていくのではないかと思われる。

 ハメネイ師がラリジャニ国会議長の弟を、司法のトップに起用したのは、こうしたハメネイ師を取り囲む、イラン国内の不安定な状況を、反映した結果ではないのか。しかし、ハメネイ師の打つ手は、どうも逆回転を起こし、ますます彼の立場を、苦しいものにしていくのではないか、と思われるのだが。