西岸地区のベツレヘムでファタハ(パレスチナ解放運動)の、第20回総会が開催された。この会議には1900人以上のメンバーが参加したというのだから、相当大がかりな会議であろう。
しかも、会議は1989年以来、20年ぶりで開催されたものだけに、20年前のファタハと今とでは、おかれた状況もなにも、全く別物になっているだろう。1989年の会議参加者のうち、死亡したメンバーも相当いようし、新たにメンバーとなった若手もいよう。
つい先日、サミール・ゴーシュの死亡とシャフィーク・エルホートの死亡が伝えられたが、それ以前にもメンバーの多くが、死亡していよう。そうなると、新たなメンバーの追加が問題になり、その対象者は若年層ということになろう。
この会議を主催するマハムード・アッバース議長は、現在ファタハが抱えている多くの問題を、解決しなければならないのだが、実際にはほとんど手つかずで終わるのではないか。
それはファタハの幹部の汚職が、公然の事実として知られるようになっており、一部に手を付ければ、他の部分にも響いてしまうからだ。そうなると、マハムード・アッバース議長は、心にもない強気の発言をして、若手のメンバーの不満を抑えようとするであろう。
その第一番に考えられるのが「パレスチナ解放と国家の樹立のための武力闘争の堅持」だが、案の定マハムード・アッバース議長はこの心にもない言葉を、口にしてしまった。
つまり、パレスチナ人は自分たちの国家を樹立するために、外交努力を継続するが、同時に武力闘争をすることも辞さないというものだ。もし、この一言をマハムード・アッバース議長が口にしなければ、若手メンバーは怒り出すであろうし、イスラエルの獄中にあるマルワーン・バルグーテイ氏は、ますますパレスチナ解放闘争の闘士として、信頼を集め、英雄視されるようになるであろう。
パレスチナ内部向けには、武力闘争の堅持を口にし、アメリカに対しては、パレスチナ内部の統一と和平交渉の継続を語り、イスラエルに対しては「パレスチナの内情を分かってください」ということであろうか。
しかし、世の中そうは甘くない。早速イスラエルがマハムード・アッバース議長の武力闘争の堅持に噛みつき、「この発言は宣戦布告と同じだ」と非難している。確かに、イスラエル側からすればそうであろう。たとえマハムード・アッバース議長の発言が、全く本心から出たものではないにしても。
イスラエル国民はマハムード・アッバース議長の言葉に、不安を募らせることは間違いあるまい。イスラエル国民にしてみれば、何時の日かにファタハとハマースが一体となって、イスラエルに攻め込んでくるという、悪夢をぬぐい去ることはできないのではないか。
しかも、シリアやレバノンのヘズブラ、そしてイランがそれを支援する危険性も、全く起こり得ない悪夢とは言い切れないのだから。マハムード・アッバース議長のパレスチナ内部向けの一言が、今後の和平交渉の上で、大きな弱味になってしまうことが、予想されるのだが。