砂上の楼閣という言葉があるが、アラブ首長国連邦のドバイ市の繁栄は、まさにその好例であろうか。
一時期は香港の中国への返還の後を継ぐ、世界的な貿易、金融センターとして高い評判を得ていた。アルコールが禁止されているアラビア半島諸国の中で、ここだけは飲酒が可能でもあった。そればかりか、売春が黙認されてもいた。
ドバイが一時期反映した裏には、イギリス人の退役大佐が、ドバイ首長のアドバイザーとして、経済開発への助言を行っていたことが知られている。しかし、このアドバイザーはいかさまビジネスを、アドバイスしていたのではないかと思えてならなかった。
2年ほど前に、ドバイを訪れた折に、その確証を得、中東TODYで書いている。つまり、ドバイが世界的に鳴り物入りで宣伝したリゾ-トの分譲は、投機対象であり、リゾート目的の分譲ではなかったのだ。
室内気温が優に50度を超える地域で、しかも、夏場(1年の大半が夏)は湿度が高い場所が、リゾ-トという以前に、人間が住むにふさわしいわけがないと思えたからだ。
確かに、エアコンを設置すれば、室内気温は何度にでも下がろうし、自家用車のエアコンを使えば、そこも快適であろう。そして、彼らが向かうオフィスも、エアコンがあり快適であろう。
しかし、それはあくまでも人口的に作られた、快適空間でしかないのだ。そこに長期滞在することが、人体にどれだけ悪い影響を与えるか、考えてみれば分かろうというものだ。
人口島の汚水処理についても、実はきちんとした対応は、なされていなかった。だいぶ時間が経つと、ドバイの海岸には汚物やゴミが、流れ着くようになったということだ。
このリゾート物件は、最初の段階では、投機目的の購入者に計画段階で完売し、完成すると高値で売れるという、倍々ゲームの夢が成立していた。しかし、それはババ抜き以外の何物でもないことは、冷静に考えれば誰にもわかることだろう。
オフィスビルも同様に、投機目的で売買され、高値を付けていた。ドバイへの航空会社のアクセスが増え、出入りが簡便であり、通信インフラも完備している。世界中の料理が楽しめるレストランもある、という駐在員にとっては天国のような場所、というイメージがドバイには出来上がっていた。
そうしたなかで、高度1キロにも及ぶ超高層ビルが、建設され始めてもいた。しかし、このビルが完成する前に、ドバイのバブルははじけてしまった。サブプライム・ローンの崩壊がドバイにも及び、投資資金が途絶えてしまったのだ。
その後のドバイは、みじめなものだった。多くの建築現場のクレーンが、枯れ木のように動きを止め、人の数も減って行った。一獲千金を夢見て集まった世界中の山師たちも、不渡りが出て逮捕されることを恐れ、いち早く逃げ出してしまったのだ。
一般労働者は、ある日突然労働者住宅から追い出され、食べるものにすらこと欠くようになり、帰国のための資金すら手元になかった。彼らの一部は強制的に集められ、島の一つに収容されたという話も聞いた。
結局、こうしたドバイの経済状況の変化は、住宅価格を大幅に引き下げる結果となった。2008年のサブプライム・ショックが起こる以前の価格に比べ、住宅価格は半値になってしまったのだ。
私は高度1キロのビルの建設現場を見た時に、「バベルの塔」を思い浮かべた。そのような高いビルは、どう考えても必要ないと思われたからだ。それにもかかわらずに、建設されるということは、話題作り以外の何物でもあるまい。そして結果は、バベルの塔と同じようなものになった。
ドバイの住宅価格の暴落のニュースと並んで、ドバイ首長がこよなく愛した競馬馬と、競馬レースにも暗い影が垂れこめ、6ヶ月間レースが禁止されることになった、というニュースが伝わってきてもいる。