イランでは、6月に行われた大統領選挙をめぐるデモが、大規模に展開され大きな反響を呼んだ。そのなかで、ネダさんが犠牲となった。彼女はデモに参加していたのではない、単なる野次馬的存在であったのだが、何時の間にか彼女は抵抗のシンボル化された。
イランの大統領選挙をめぐる問題は、その後もくすぶり続けている。欧米のマスコミは、イランの状況を非民主的とし批判を続けている。それと呼応する形で、イラン国内では小規模デモが、繰り返されている。
つい先日も、ネダさんの墓地に2000人ほどの人たちが集まり、追悼集会が行われたが、警察が介入し逮捕と弾圧が、行われたと報じられている。
続いて、8月5日のイラン大統領就任式を前に、大統領選挙批判デモ参加者の裁判が、革命裁判所で始められた。この裁判には、政府の元高官も多数含まれていた。
ハタミ大統領時代のアブタヒ副大統領、アミンザーデイ元外務次官、に加え、政党人からはイラン・イスラム参加戦線のミルダマデイ党首らだ。出廷させられた被告の総数は、100人以上だと伝えられている。
逮捕者のなかには、ハタミ元大統領の側近、ラフサンジャニ元大統領の側近ムサビ元首相の側近なども、含まれているということのようだ。もちろん、これら元大統領や首相は、アハマド・ネジャド大統領の強硬な政治方針を、厳しく批判し続けてもいる。
さて、今回の革命裁判所での公判の開始は、一体イランの最高権威者であるハメネイ師とアハマド・ネジャド大統領が、どのような判断を下したことに基づいているのであろうか。
イラン政府は抗議に参加して逮捕された300人の収監者のうち、140人をこの裁判に先立って釈放しているが、それはイラン国民の支持を取り付けることを、狙ってのものではなかったろうか。
しかし、他方では、今回のデモの黒幕とされる、裁判の被告人たちは、国家反逆罪に処せられる、という話しも出ている。つまり、そのことは、国家に対する第一級の犯罪であり、死刑が宣告されることも、十分ありうるということを意味しているのだ。
イラン政府側が革命裁判所に対し、この国家反逆罪の適用を、許可するのか否かは、今のところ明らかにはなっていない。
しかし、もしこの国家反逆罪が適用され、被告の一人でも裁かれ、処刑されることになれば、ネダさんの場合(デモ見物者が偶然遭遇した悲劇的死)とは異なり、国家に対する抵抗の結果の処刑となり、イラン国民の政府に対する反発は、一層激しいものになろう。
イラン政府、アハマド・ネジャド大統領の、今回のデモ首謀者たちに対する裁判の実施は、極めて危険なものとなるのではないか。つまり、もし厳しい判決を下せば、イラン国民は政府に対する抵抗を強めようし、アハマド・ネジャド大統領やハメネイ師の権威は失墜しよう。
そうかと言って、生ぬるい対応をすれば、イラン国民は政府を侮ることになり、国民の抵抗活動は今後、拡大して行くことになろう。こう考えてみると、現在のイラン国内状況は、極めて政府、アハマド・ネジャド大統領、ハメネイ師にとって、不利なものになりつつある、ということではないか。何事も逆回転し始めると、その修正は極めて困難だということであろうか。