マレーシアの新しい動きと懸念

2009年8月 2日

「マレーシア内情」

マレーシアも世界の他の国々の例に漏れなく、経済的には悪化の状況にある。しかし、この国の民族性からか、あまり険悪な雰囲気は感じられなかった。

しかし、そうした一般状況とは別に、現在マレーシアでは、今後の社会状況悪化を想定させる、動きが始まっている。マハテール首相に続くアブドッラー首相は、前首相の人気が異常に高かったこともあり、常に比較されることから人気がなかった。

このため、マハテール時代に最高の支持率を得ていた与党は、支持率が急降下し、アブドッラー首相はその責任を取り、辞任することとなった。

アブドッラー首相の後任となったナジーブ首相は、自身の存在を誇示するべく、大胆な政策を打ち出している。その中心は(マレーシアはひとつ)政策であろう。

(マレーシアはひとつ」政策とは、それまでマレーシアがマレー人、華僑、インド人によって構成されているとし、その比率を631とし、その比率をあらゆる面で、適用してきていた。まさに、この比率の適用は、マレー人優先策であったといえよう。

ナジーブ首相の(マレーシアはひとつ)政策とは、この比率によらず、全てのマレーシアを構成する国民を、平等に扱うというものであり、人種の壁と差異を、撤廃するというものだ。

しかし、現実はそう簡単ではあるまい。ナジーブ首相について、あるマレー人は「元首相の子息であり、彼は学校に通学するのに、自家用車で送り迎えされていたし、外国留学(イギリス)をしている。そのため、彼にはマレーシアの一般庶民の生活は、全く分かっていないだろう。

そして彼はマレー人と華僑、インド人との間に存在する、人種間対立感情や経済問題、宗教的対立感情が、全く分かっていないだろう。今回の(マレーシアはひとつ)政策は、全く現実を無視したものであり、成功しないだろう。」と語っていた。

また、あるマレー人は「ナジーブ首相が、首相就任したことにより、これまでとは全く異なる政策をスタートし、彼の存在感を示したいのであろう。彼には留学帰り組の、ブレーンが相当数いるだろうから、ある程度の成果は、出せるのではないか。」と語っていた。しかし、彼もナジーブ首相の新政策に、特別の期待を寄せてはいないようだった。

他方、いま一番注目すべき、マレーシア国内での動きには、「RELA」の結成がある。この「RELA」とは、警察の下部組織であり、民間警察のようなものだ、という表現が一番合致するのであろうか。

この「RELA」組織の構成メンバーの総数は、一説によれば全国で、3万人規模ということだ。彼らには職務質問ばかりではなく、逮捕権も家宅捜査権もあるようだ。これまでに「RELA」が突然個人宅に押し入り、家宅捜査した事例が、多数あるということだ。

実際には、この「RELA」の権限は、まだ確定していないのではないかと思われる。そこで、問題は何故何を目的に、ナジーブ首相がこの「RELA」を結成することを、決めたかということだ。

単純に考えれば、治安の維持を目的とし、警察では手が回らない部分にまで、監視の目を強める、ということであろうか。隣国インドネシアでは、JI(ジャマー・イスラーミー)のような、過激イスラム教徒が活動していることから、マレーシアもそのような組織の活動を封鎖するために、事前に対応策をたてたという風にも考えられる。

ナジーブ政府はこの「RELA」の結成で、来年には犯罪発生率を、20パーセント引き下げると発表している。

しかし、この「RELA」の結成目的は、別のところにあるのではないか、とも考えられる。つまり、ナジーブ首相は第二代マレーシア首相だった彼の父である、ラザク元首相を事ある毎に持ち上げているということだ。

つまり、輪番制の王国から、マレーシアを大統領制国家にしよう、としているのではないだろうかと思われるのだ。「RELA」の結成による警察権の拡大を基盤に、ナジーブ首相は初代のマレーシア大統領を、目指しているのではないか、という懸念が浮かぶ。

当然のことながら、そうした思惑がナジーブ首相にあるとすれば、それは旧宗主国であるイギリスの、意向を受けたものであろうことが、推測されるのだ。イギリスはナジーブ政権を擁護することにより、マレーシアを国際国家(非マレー人種優先国家)にして行こう、と考えているのではないだろうか。

そうであるとするならば、今後マレーシア国内状況は、マレー人の間のナジーブ政権への不満の高まりから、混乱期に入っていくのではないか。そのことを想定しての、「RELA」の結成であることも考えられる。

表現を変えて言えば、イギリスは旧宗主国として、再度、旧英領諸国への関与を強めて行く、意向なのかもしれない。その尖兵として、ナジーブ首相が担ぎ上げられ、強硬手段を採るために、「RELA」の結成が進められているのではないか。