イスラム諸国には、いまだに名誉の殺人という習慣が、まかり通っている。これは宗教的に罪を犯した者を、家族が裁くというものだ。そう聞くと、至って穏やかなもののように思えるのだが、実態はそうではない。
残念なことに、宗教的に罪を犯した場合に裁かれるのは、ほとんど全てが女性だ。しかも、それは性的犯罪に、女性が関わった場合がほとんどだ。つまり、もっとわかりやすく言えば、性的関係を持つべきでない相手との、性的関係があった場合、女性の家族が社会的不名誉を恥じ、その女性を殺害するというものだ。
これは厳密に言うと、イスラム教の法によるものではない。イスラム法では証人が必要であり、その証人は信頼できる立派な信者であることが、求められている。疑いがかかったからと言って、裁いていいわけではないのだ。
しかし、現実にはその地域で、自分の家族の女性が不倫を行っている、という噂が立っただけで、家族がその女性を殺すケースが、少なくないようだ。殺害に及んだ家族の男性は名誉の殺人であるということで犯行をとがめられたり裁かれることはない。
もちろん、この種の殺害事件は闇から闇へと、葬り去られるものであり、どこの国で何年に、何件起こっているかについて、知ることは難しいだろう。
サウジアラビアではイスラム教が、他の国々に比べ厳格に守られている。サウジアラビアにはイスラム教を、国民が正しく守るように、ムタッワと呼ばれる宗教警察制度が設けられている。彼らは礼拝時間が来ると、店を閉めさせモスクに行くように指導したり、男女の服装に乱れがあると、注意したりするのが役割だ。
加えて、断食月には正しく断食を主なっているかどうか、監視するのも彼らの役割だ。このムタッワによる指導は、外国人、異教徒も受けることになり、外国人だからと言って、断食時間にたばこを吸ったり、飲み物を公衆の面前で飲むことは、許されないのだ。
そのムタッワによるミスリードが、悲しい出来事を生んで、今話題になっている。19歳と21歳の姉妹が、男性との関係をうわさされ、ムタッワに逮捕され、留置所に入れられていた。
サウジアラビアの場合、彼女たちを引き取りに来れるのは、家族の男性と言うことになるのだが、この二人の女性は留置所から釈放されたあと、留置所の前で、家族(兄弟)によって殺害されたのだ。
そうした犠牲が生まれることが一般的な、サウジアラビアのような国の場合、釈放される女性は、女性の救援組織に引き渡されるか、刑務所に送致し、家族には引き渡すべきでない、と人権団体はムタッワの執った措置を非難している。
サウジアラビアでは毎日のように、名誉の殺人が繰り返されている、と人権団体は主張しているが、ムタッワの役割を含め、サウジアラビアはまだまだ改善すべき余地が、残されているということであろう。