イラン・デモだけでは体制打倒はないが

2009年7月13日

 述べるまでもないことだが、国民の多くがデモに参加し、声高に体制批判をしても、その国の体制が、打倒されることはありえない。おびただしい流血が繰り返された揚句の果でも、体制打倒は難しいことであろう。

 その判断からいけば、現在、イランで展開されている反政府の動きは、アハマド・ネジャド大統領と彼の擁護者である、ハメネイ体制を打倒することは、不可能であろう。

 政府を批判するムサヴィ氏やカロウビ師、ハタミ師などは国民の犠牲を、出来るだけ小さいものにし、しかも、体制を打倒するのではなく、変革させたいと考えているようだ。

これらの三氏が考えていることは、デモ参加者たちとは、少し異なっているのかもしれない。つまり、現政権に対しては批判をするものの、基本的には神権体制を、維持していくということではないか。

 そう推測するのは、これらの三氏がいずれもが、ホメイニ革命の申し子だからだ。彼らの正統性はあくまでも、ホメイニ体制支持者であり、ホメイニ体制とその後の、イラン神権体制を、支えてきた人たちだということだ。だからアハマド・ネジャド大統領もハメネイ師も、これら三氏を容易には、処罰することができないのであろう。

 こうした事情を考えると、イランの大統領選挙後に起こった、イラン国民の不満のうねり、反体制のうねりは、何の成果も生み出すことなく、やがては消滅していってしまう、ということになるのだが、最近出てきた新たな動きを見ていると、どうもそう簡単には収まりそうもなくなってきた、と思えるふしがある。

 イラン国民のデモに対し、革命防衛隊とその下部機関ともいえるバシジが、弾圧する側に回ってきていた。そうしたなかで、警察は一歩後ろに引き、軍はそれ以上に傍観者の立場を、とってきたように思える。

 そこで、今後のイラン情勢の判断の上で、最も大きなファクターは、改革派の宗教界と学者文化人などの、リーダーたちの動きに加え、イラン軍がどう状況に対応するかということであろう。

 イラン国軍はこれまで、沈黙を守ってきたが、ここにきてやっと口を開いた。サイド・ハサン・フェイロウザバデ統合参謀総長は「軍は最高権威者と国民のために犠牲になる覚悟だ。」と語っている。

 加えて、テヘランの警察トップである、アジズラ・ラジャブザデ将軍は、五万人からなる「名誉警察将校団」を結成することを発表している。加えて、イラン全土でこの名誉警察将校団の規模、を三十万人にすることを語っている。

 これら二人の軍と警察代表の発言は、何を意味しているのかを、考える必要があるということだ。つまり、この二人が何を意図して発言したのか、ということだ。

他方では、アヤトラ・オズマ(大アヤトラ)の地位にあるフセイン・アリー・モンタゼリ師が、アハマド・ネジャド大統領に対する、厳しい批判を展開し始めていることだ。   

彼の教え子であるモフセン・カデバル氏は、彼のサイトで「デモ隊に対し逮捕と銃撃を加えたことは、イランの指導者がムスリム・コミュニテイを統治する能力に、欠けているということの証明だ。」とハメネイ師の名前こそ出していないが、最も厳しい批判を展開している。