クルド自治政府のバルザーニ議長の参謀である、フォアード・フセイン氏が意味深長な発言をしている。この発言は、クルド人の本音であると同時に、願望でもあろう。
彼はアメリカ軍が2011年に撤退した後、イラク国内状況について、ほぼ間違いなく各派間の戦いが、起こるだろうと予測している。つまり、シーア派アラブ、スンニー派アラブ、クルドの三つ巴の戦いになるだろう、と予測しているということだ。
そして、彼の予測によれば、三つ巴の戦いになれば、スンニー派アラブ人はアラブ諸国によって支援され、シーア派アラブ人はイランによって支援されるだろうということだ。
アラブとイランが潜在的に対立しており、イラクの覇権がイラク国内のスンニー派によって握られるのか、シーア派によって握られるのかということは、今後の中東地域、なかでも湾岸諸国にとっては、大きな問題なのだ。
シーア派がイラクの覇権を握れば、述べるまでもなく、イラク・イラン関係は促進され、イランとイラクは双方の利益を考え、湾岸諸国に対し協力して、圧力を強化していくことが予測される。
そればかりではない。イラクがシーア派の手に落ちた場合、イランとの良好な関係から、シリアとの関係も推進され、イラクの石油はシリアに抜けて、外国に輸出されることになろう。そのことは、トルコにとっては、極めて不愉快なことであろう。
そうなれば、イラクとヨルダン・トルコとの関係は悪化し、パレスチナはハマースの勢力が増し、レバノンもヘズブラの勢力が増すことになろう。つまり、穏健派アラブ諸国は、押しなべて中東地域での影響力を弱め、存在感が低下して行くということだ。
もちろん。エジプトもその波を、直接的に受けることになろう。エジプトではムバーラク大統領が高齢であることから、次男ガマール氏への権力の委譲工作が進んでいるようだが、それも不確かなものになって行こう。
イラクの覇権がスンニー派の手に入れば、これとは逆で湾岸諸国との関係、ヨルダン、トルコとの関係は改善していくのではないかと思われる。もちろんエジプトとの関係も良好なものになろう。
イラクの覇権をシーア派が握っても、スンニー派が握っても、クルドにとっては極めて危険なものであろう。クルドはキルクークの石油資源をめぐり、いずれの側とも緊張関係にあるからだ。
まさに四面楚歌のクルドが、唯一頼れるのはトルコしかあるまい。これまでトルコとクルドとの関係は、PKK問題があることから、ギクシャクしてきていたが、クルドはいま生き残りと資源獲得をかけ、トルコとの関係を強化する必要があるということだ。
フォアード・フセイン氏は「シーアにはイランが、スンニーにはアラブが、そしてクルドにはトルコが必要だ。」「われわれには独立する権利があるがそれが不可能なら、イラクは民主国家ではないのでトルコに加わりたい。」と語ったのはこうした事情からだ。それはトルコの望むところでもあろう。何の苦労もなく、クルド地区がトルコに、転がり込んでくるのだから。