イスラエルのペレス大統領が、エジプトを訪問し、ムバーラク大統領と話し合った。二人はその最終場面で、共同記者会見に応じた。
ムバーラク大統領はこの記者会見の席で、2年前からパレスチナ人に人質に取られ、行方不明のままになっている、イスラエル兵ギラド・シャリト氏についてコメントした。
ムバーラク大統領のコメントは、ギラド・シャリト氏は生存しており、健康状態は良好であり、近く釈放されることを期待する、というものだった。ムバーラク大統領はエジプトが、イスラエルとパレスチナとの間の、人質交換の仲介をしていることから、この問題に触れたのであろう。
しかし、このムバーラク大統領のギラド・シャリと氏に関するコメントを、パレスチナのハマース側の代表で、人質交換交渉にあたっているオサーマ・アルムザイニ氏は、ムバーラク大統領の発言の翌日、全面的に否定した。
彼オサーマ・アルムザイニ氏によれば、「ギラド・シャリト氏の生死について、我々には分からない。そのことを知っているのはギラド・シャリト氏を人質に取った連中だけだ。」ということだ。
オサーマ・アルムザイニ氏は、ムバーラク大統領の発言について「リップ・サービス」「希望的観測」でしかないと評している。
こうした発言がハマース側から出てきたからと言って、ハマースとエジプトとの関係が悪い、という判断はできないだろう。ハマースにとってエジプトは、いまだに使える有効なカードの、一枚であることは確かだからだ。
しかし、ハマースの幹部がエジプトのムバーラク大統領の公式発言を、全面的に否定したことは、ムバーラク大統領のメンツを完全に潰したわけであり、そう簡単な話ではあるまい。
ハマースはエジプトのムバーラク体制が、現在では、中東政治であまり実力、影響力を有していない、という判断を下しているのであろう。
ムバーラク大統領にとって、パレスチナ問題は第二義、第三義的問題でしかないのではないか。
ムバーラク大統領はイスラエルに対し、一定のサービス精神を発揮しておかないことには、彼の二男ガマールへの権力移譲を、イスラエルとアメリカに認めてもらえないという状況にある。
今回のムバーラク大統領の発言は、その意味では、内向きのものであったのかもしれない。