ブラフとばかりは思えないイスラエルの動き

2009年7月 6日

 イランの大統領選挙結果について、一番強い受け止め方をしたのは、イスラエルであろう。以前にもご紹介したとおり、イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの新大統領にアハマド・ネジャド氏が、選出されたことを歓迎した。

 しかし、その歓迎は通常の意味とは、異なるものだった。イランの新大統領に、アハマド・ネジャド氏が再選されたことで、イスラエルは世界に対し、イランの危険性を再度説明する必要が、ないというものだった。

 同時に、そのことはイスラエルが、アハマド・ネジャド大統領の今後の方針に、非常に強い危機感を抱いている、ということでもある。つまり、アハマド・ネジャド大統領が率いるイランは、核兵器を開発をする、とイスラエルは確信しているということだ。

 イランの大統領選挙後、イスラエルは本格的な軍事訓練を、何度か実施している。述べるまでもなく、これらの軍事訓練はイランとの戦争を、前提としたものであろう。

もちろん、イスラエルがイランと戦争をすることになれば、レバノンのヘズブラやパレスチナのハマース、そしてシリアがイスラエルに対し、攻撃してくる可能性が高い、とイスラエルは考えているだろう。

 イスラエルにとっては、非常に大きなリスクを抱えての、開戦決断ということであろうが、この戦争の必要性は、イスラエル人からしてみれば、よけて通れない問題であろう。もし、イランが核兵器保有国になった場合、アハマド・ネジャド大統領はイスラエルに対する、核兵器を使った攻撃をしてくる可能性を、否定できないからだ。

 そこで、イスラエルがイランへの攻撃を実行する場合、空爆だけとなろう。そうなると、イスラエル空軍はどのルートを通って、イランを空爆するかということだが、これまで二つのルートが考えられていた。

一つはイラクの空軍基地を使うというものであった。しかし、イラクの空軍基地の利用については、アメリカが許可していなかったので、実行不可能な案とされていた。もう一つは直接イスラエルの基地から長距離を飛行して、イランの核施設を、空爆するという案だった。

 これらの案に加え、最近になって浮きあがってきたのは、サウジアラビア上空を通過しての、イラン空爆の可能性だ。イギリスのサンデー・タイムズ紙は「イスラエルがイランを空爆する場合、サウジアラビアはイスラエル機が、自国の上空を通過することを黙認する。」という記事を掲載している。

 この記事の信ぴょう性については、断言できないが、地域の政治軍事状況から判断すれば、サウジアラビア政府がイスラエル軍機の自国上空通過を、黙認するという可能性はありえよう。

イランが核兵器を持つことになれば、そのことはサウジアラビアにとって、きわめて危険なことであろうし、核を使った外交交渉で、サウジアラビアはイランに対し、不利な立場に立たされることになるからだ。

 これまで、アメリカ政府はイスラエルによる、単独でのイラン攻撃について、否定的意見が多かったのだが、最近になって違った意見が出てきている。参謀総長マイク・ミューレン将軍が「偶発的に起こりうる。」と語っている。

 加えて、ジョー・バイデン副大統領は「イスラエルの決定に、口を挟むつもりはない。アメリカは独立した国の決定について、その国が決定したことに対し指示する権利はない。」と語っている。つまり、イスラエルがイランを攻撃するのであれば、アメリカはそれを阻止しないということだ。

 このイスラエルとアメリカの動きを、単なるブラフととるか、現実味を帯びた動きととるかは、読者に任せよう。ただ、イスラエルは自国民の生命の安全に、最大限の努力をしている国であることを、忘れるべきではなかろう。