イランの大統領選挙結果をめぐって、大規模なデモが行われたのは、つい最近のことだ。それが、ネダさんという女性の死亡、その後の大量逮捕、一部反体制派の処刑などが重なり、事態は収拾したかに思えていた。
しかし、今回の動きは、イラン体制の根本部分に、直接関わるものであっただけに、それほど簡単ではなかったようだ。イランの最高指導者であるハメネイ師と、アハマド・ネジャド大統領を中心とする体制派に対し、ムサヴィ氏を中心に、元大統領であるハタミ師やラフサンジャニ師、それに大統領選挙に立候補したカロウビ師らが、一体となって対立している。
ハタミ師は選挙戦の初期に、自身の立候補を取りやめ、ムサヴィ氏を支援する側に回り、選挙後は沈黙していたが、再度、ムサヴィ氏を支持し、体制側に対抗していく立場を、明らかにした。
ラフサンジャニ師も、あまり目立たない形ではあるが、イラン国内の状況を冷静に分析しながら、ムサヴィ派についているようだし、カロウビ師もアハマド・ネジャド体制は不当であるとし、これを認めないという立場を、明らかにし、その立場を堅持している。
こうしたイラン国内の要人たちの動きは、多分に外部の支援があってのことではないか。もちろん、外国がイランの反体制派を直接支援している、と言うつもりはないが、欧米の流れが、イランの反体制側を、勇気付けているのかもしれない。
ムサヴィ氏が今後、自身と支持者の安全を考えて、行動を自制するのではないか、という推測もあったが、ここにきて「アハマド・ネジャド政府は正統性がない」と明言したことで、アハマド・ネジャド体制への挑戦姿勢を、明確にしたということであろう。
そのことは、単にアハマド・ネジャド大統領に挑戦するだけではなく、ハメネイ師の指導する、イスラム神権体制に、挑戦することを意味している。したがって、ムサヴィ氏の今回の決意は、1979年のホメイニ革命以来、30年続いたイラン神権体制を、否定することになるのだ。
現在、神権体制の中にあって、特権階級に位置していた人たちが、その特権を放棄し、ムサヴィ氏と行動を共にするということでもある。当然、この新たな動きは、アハマド・ネジャド大統領と、彼の擁護者になったハメネイ師にとって、極めて危険なものである以上、あらゆる手段で打倒する、という対応が取られる可能性が高い。
そう考えると、イランの国内状況は今、大爆発の寸前にあるのかもしれない。