沈黙を破り始めたアヤトラオズマたち

2009年6月19日

 イランのシーア派には、イスラム学者のランクがある。一番下が学生だろうが、そのすぐ上にはモッラと呼ばれる、一般のイスラム学者がおり,その上にホッジャトルイスラーム、アーヤトッラー、アーヤトッラー・オズマ(大ア-ヤトッラー)といった序列だ。

 現在、イランのイスラム教最高権威者になっているのはハメネイ師だが、彼は2階級特進で、故ホメイニ氏が大アーヤトッラーの地位に着け、彼の後継者としたいきさつがある。

 当時、本来であればシャリーアト・マダリ師が、最高権威者の地位を継ぐべきであったといわれていた。ホメイニ師は彼が死ぬ前に、最も従順な弟子を2階級も特進させ、無理に最高権威者の地位につけていたのだ。

つまり、ホメイニ師ですら、自分の死後も大事にされることを望んで、異例を行ったのであろう。

 以来、シャリーアト・マダリ師は自宅軟禁という立場にあり、あまり政治に口を挟む機会も、与えられることもなかったようだ。もちろん、彼の支持者が自宅を訪ね、指導を仰ぐ分にはあまり問題はなかったのであろう。それすらも政治抜き、とされていたのであろう。

 こうした経緯は、ハタミ元大統領もラフサンジャニ元大統領も百も承知だ。それがいままで沈黙を続けてきたのは、ハタミ師もラフサンジャニ師も、自分の利益が侵されることはなかったからであろう。

 今回、実質的にはアハマド・ネジャド大統領に挑戦し、ハメネイ師にも挑戦したかたちになっているムサヴィ氏ですら、これまでハメネイ師に対し、沈黙を守り、抗議することがなかったのだ。それだからこそ、彼らはいまだにイラン政治の、中枢に位置し続けられたのだ。

 しかし、今回の大統領選挙では、これらの便宜的に政治で、ハメネイ師に従順を装ってきた人たちが、一斉に反旗を翻し始めているのだ。大統領に立候補したムサヴィ氏は勿論だが、彼を支持するといったハタミ師や、ラフサンジャニ師もそうだ。その事実には大きな意味があろう。

 そして、幽閉状態にあったシャリーアト・マダリ師が、重い口を開き始めているのだ。

 イランの政治の変化については、アメリカやイスラエルの工作、干渉の可能性も並べれば幾らでも、それらしい証拠はあるが、それを除いてイラン国内だけを見ても、今回の動きはただならぬものがある、ということではないか。

 抗議デモへの参加者は、1999年の抗議デモのときは学生だけであり、一般人は参加しなかったが、今回は一般人も参加し、まさに国民全体の抗議行動になっている点を、見逃すわけには行くまい。

 ハメネイ師がずるがしこく、アハマド・ネジャドの首をはねて、彼自身の地位を堅持しようとしても、そうは行かないのではないかと思えるように、状況は切迫してきたようだ。