イランの大統領選挙の結果に不満な、ムサヴィ候補の支援者たちが、大規模な抗議デモを首都テヘランで始めてから、少し様子を見ていた。当初は、それが簡単に収まる可能性と、そうでない可能性を秘めていたからだ。
しかし、今日に至って、どうも簡単かつ短期間では、収まりそうにない。それどころか、抗議デモは全国規模に拡大している。このため、イラン政府は大統領選挙の票の一部の、数え直しをすると発表している。
これは明らかな権力側の、大衆に対する妥協ではないか。本来ならば、そのようなことはありえないはずなのだが、、。つまり、ことがここに至って、イランの最高権威者であるハメネイ師に、動揺が見られるということではないか。
どこかのマスコミが書いていたが、言われてみればあまりにも、選挙結果が出るのが、早過ぎたような気もする。しかも、アハマド・ネジャド候補が全体の、60パーセント以上を取ったということは、信じがたい部分がある。
なかでも、不思議に思ったのは、他の候補の本拠地でさえ、アハマド・ネジャド候補がほとんどの票を、獲得したという事実だ。イランを始め、中東地域のいずれの国でも、地域住民の結びつきは強く、本来であれば、そこの出身者にとって有利なはずなのだが、そうはならなかった。
今回の選挙後の流れを見ていると、デモが首都テヘランで始まり、次第に地方都市にまで広がったこと。そして、死傷者が多数出るようになったことは、見逃せない。
もちろん、政府側は外人ジャーナリストの取材に制限を加え、一部は国外に出るよう強制されてもいるようだ。イラン人ジャーナリストの多くが、逮捕されているという情報もある。
最初の段階では、インター・ネットなども規制がされていたようだが、その後、緩和されたという情報もある。しかし、厳重な監視下にあることに、変わりはあるまい。
こうした情報の流出に対する、政府側の厳しい対応の流れの中での、意外な伏兵が登場した。それは携帯電話だった。イランでも携帯電話の利用者が多く、報道用のカメラを担いでは、近づけないところにでも、この携帯電話が入りこみ、デモの様子を記録し、国内外に送り出されているのだ。
トウイッターと呼ばれるシステムが、携帯電話で写された画像を、容易に国内外に送れる機能を、有しているらしい。結果的に、報道規制の効果は、全くなくなり、イランで起こっていることが、リアル・タイムで外国にも、伝えられるようになった。
イラン国内では、テヘランを始めとした、各地域で行われている、デモの様子が伝えられ、新たなデモが他の地域でも、発生するようになったのだ。しかも、デモ参加者が権力側の発砲や殴打で、死傷した映像も送られるのだから、ますます興奮の度は、全国規模で高まって行くことになる。
加えて、イランのサッカー・チームが、ムサヴィ派を支援する、緑のテープを腕に巻いて、サッカーの試合を行ったことも、反政府の動きを拡大させたものと思われる。政治的には、それほど熱くならない人たちも、サッカー・チームに刺激されてデモに参加する、ということが起こるからだ。
ムサヴィ氏は、平和裏にデモを継続しよう、と全国の支持者に伝えている。彼が声高にそう言えば言うほど、デモ参加者の中から死傷者が出た場合、イラン政府のイメージは、悪化していくということだ。
アメリカのオバマ大統領は、今回のイラン国内の動きに対し、関与しないことを、始めの段階から明言しているが、トウイッターを運用している会社に対し、オーバーホールの予定を延期し、イラン国内で使用が可能な状態を、継続するよう指示したという情報が流れた。
オバマ大統領は結局、イランに対する軍事作戦が、非常に困難な状況したで、今回のデモを発端に、イラン政情が混乱の度を増し、イラン権力の崩壊を、期待しているのかもしれない。オバマ大統領がカイロ訪問をした後で、中東の専門家たちは「オバマは仲間割れを引き起こし、内紛を起こさせる作戦だ。」と語っていた。
イランの場合もそうなのかもしれない。今の全国規模のデモが、いつまで続くのかは、まだ予測不可能だし、そのデモが最終的に何を引き出すかも不明だが、ここまで来ると、やはり少なからぬ変化が、イランの国内に生まれると、考えるべきであろう。その段階での死傷者の数が、増えないことを祈るばかりだが、変化にはある程度の犠牲も、必要なのかもしれない。
それをムサヴィ氏は覚悟したのかもしれない。早晩、彼とハメネイ師との最高権力をめぐる衝突が、起こりかねないのだから。