エジプト・モスクすべてが宗教省管轄下に

2009年6月16日

 エジプト全土のモスクが、ワクフ省(宗教省)の管轄下に入った、とワクフ省が発表した。エジプト全土のモスクの数は、103千個所だとされている。この結果、モスクのイマーム(宗教指導者、礼拝の先導者)も、ワクフ省によって指名されるか、派遣されることになる。

 このワクフ省による、全国のモスク管理とは、いったい何を意味しているのであろうか。実は、政府による言論統制なのだ。これまで一部のモスクでは、宗教の説法だけではなく、政治批判も行われていたのだ。そのなかから、多くの原理主義者が誕生してもいた。

 つまり、エジプト政府はワクフ省に許可を出し、すべてのモスクで、政治批判をすることを、抑えさせたということだ。確かに、政府が主張していたように、一部のモスクのイマームは、イスラム教原理主義を唱え、原理主義者のも巣窟になったり、原理主義者の教育の場に、なっていたところもある。

 加えて、何年か前には、一部のモスクのイマームが、勝手にファトワ(宗教的裁定)を出し、イスラム教から逸脱する行動を、その地域住民に採らせていたことも、否定できない。

 しかし、今回の場合は明らかに、政治的意図の下に、実行されたものであったと思われる。当然のことながら、野党最大の勢力であるムスリム同胞団は、今回の政府の動きを、激しく非難している。

モスクは彼らムスリム同胞団の、宣伝活動の重要な拠点になっていたのだから、無理もないことであろう。

 一体それでは今の時期に、何故この決定が行われたのかと言えば、過去何度か書いた、ムバーラク体制から彼の次男ガマール氏への、権力移行の下ごしらえであろう。

ムスリム同胞団という、エジプト最大の反政府勢力組織の、活動拠点であるモスクを、完全に政府の支配下に置くことによって、彼らの活動に厳しい規制をかける、ということなのであろう。

ポストムバーラク体制を確実なものにするため、これまでムバーラク体制が執ってきたステップは、以下のようなものだ。

1:国会議員選挙を前倒しする。

2:女性議員枠を設定し野党の当選枠を狭める。

3:モスクの国家管理の徹底による野党の政治活動阻止。

 こうまで性急にたたみかけるように、政府がことを進めるということは、事態が急を要しているということではないのか。