ヘズブラとハリーリ氏の妥協

2009年6月15日

 レバノン選挙の結果は、これまで想像もできなかったような変化を、この国に生み出しているようだ。何者かによって暗殺された、ハリーリ元首相(スンニー派)の子息サアード・ハリーリ氏と、彼の父の敵と目されていた、ヘズブラが共闘する形が生まれたのだ。

ハリーリ元首相は、サウジアラビアの王家との強い関係から土木建設会社を運営し、一大財産をなし、その資金で、長期にわたったレバノン戦争の結果、廃墟となしていたレバノンの首都ベイルートを、復興したことで高い評価を、内外から得ていた人物だ。

しかし、その彼の人気は他方で、シリアとの関係を悪化させ、何者かによって暗殺されるという、悲惨な結果をもたらした。その暗殺に、シリアの情報機関が関与していたか、あるいは直接実行したという噂が、レバノンをはじめ世界中に広がっていた。

したがって、子息であるサアード・ハリーリ氏とシリアとの関係は、決していいものではなかった。それどころか、敵対関係にあったという方が正確であろう。そして、そのサアード・ハリーリ氏が敵対しているシリアと、レバノンのヘズブラとの関係は、極めて良好なものであることから、サアード・ハリーリ氏とヘズブラとの関係は、決して良好なものではなかった。

しかし、今回のレバノンでの選挙の結果、サアード・ハリーリ氏の政党(未来への運動組織)が勝利すると、彼が首相職に就任する上で、ヘズブラとの協力が必要になった。ヘズブラの選出議員の支持を、サアード・ハリーリ氏は必要としたのだ。

どちら側から具体的に働きかけたのかについては、ヘズブラがサアード・ハリーリ氏の首相就任を、支持すると発表していることから、ヘズブラ側であろうと思われる。

サアード・ハリーリ氏は、アメリカとの関係も良好であることから、シリアに加えイランとの関係も深いヘズブラの、サアード・ハリーリ氏への接近は、実に興味深いものだ。

ヘズブラがサアード・ハリーリ氏を支持することによって、何を得るのであろうか。サアード・ハリーリ氏を支持することによって、その見返りとして重要な閣僚ポストを、ヘズブラが手に入れる可能性が、出てくると予測すべきであろう。

アメリカがレバノン政府に対して、大量の武器兵器の供与を、すでに発表しているが、ヘズブラがサアード・ハリーリ内閣を支持することにより、もし国防相のポストを手にすることができれば、全く新しい展開が、始まるかもしれない。

ヘズブラは今では、単なるシーア派の武闘集団ではなく、れっきとした政党にのし上がっている。しかも、このうえ重要な閣僚ポストを手にすれば、国防相のポストは得られないとしても、内閣内部での発言権が、増して来るということだ。

イスラエル政府は、アメリカによるレバノンへの兵器供与が、結果的には、ヘズブラに実質的に兵器を供与した形になり、イスラエルにとってきわめて、危険な状況を生み出すのではないか、と深い懸念を抱いている。

昨日の父の敵と目される組織とでも手を組む、あるいは昨日の敵に塩を送るレバノンの政治は、実に目まぐるしく変化すると同時に、複雑だといえよう。