アメリカのオバマ大統領による、カイロ大学での演説は、エジプト政府は別にして、アラブのインテリの間では、極めて不興であったことは、既に報告したとおりだ。今日になって、BBCのインターネット記事にも、そのことが紹介されていた。
それは当然であろう。彼一流のタレント性を生かし、軽妙にアメリカの新中東政策なるものを語ったのだが、それはみな条件付であったことを、見逃すのは日本人ぐらいなものであろう。
彼が言った種々の新中東外交とは、みな条件が付いていて、その条件が満たされず、アメリカの意向とは違う方向へ行った場合、それはアラブ諸国中東諸国の責任だ、というものであったと私は受け止めたし、アラブの人たちもそう受け止めているようだ。
一例だけを挙げよう。オバマ大統領はイスラエルとパレスチナという、二国家が誕生することが、和平の条件だと言い、あたかもパレスチナ国家が出来ることを、アメリカが強力に進めるように語ってはいるが、それは真意ではなかろう。
イスラエル側はオバマ大統領の立場に、疑問と不安を抱いているというが、それはある意味で当然と思われる。イスラエル国民にしてみれば、世界の大国であり、イスラエルの最大の擁護者であるアメリカの大統領が、パレスチナ国家も創設すべきだと語ることは、いわば「有無を言わせない」という風に、イスラエル国民には聞こえよう。
交渉者の双方に、仲介者に対する信頼感と安心感がなければ、交渉はうまくいかないのが当たり前だ。しかも、強者の側にあるイスラエルが、仲介者のアメリカに不安を抱くようでは、交渉が成功する確率は、低いのではないか。
しかし、オバマ大統領の言う二国家案には裏がある。オバマ大統領はその前提として、パレスチナ内部が統一して、和平交渉に向かうことを、条件にしているし、過去のイスラエル・パレスチナの合意を、全部パレスチナ側が認めることも、条件としている。
パレスチナのマハムード・アッバース議長率いるファタハは、それでいいだろうが、もう一方のハマースは、受け入れまい(ハマースが67年国境を認めるという報道もあるが)。
アメリカ政府はファタハとハマースが対立しており、ファタハによるハマース狩りが西岸地区で起こっているさなか、ファタハに対する武器の大量供与を決定している。つまり、アメリカはファタハに対し、力でハマースをねじ伏せ、その上でイスラエルとの交渉を、進めろということではないのか。
言い換えれば、オバマ大統領の率いるアメリカ政府が、いま進めようとしている、イスラエルとパレスチナの和平交渉の前提に、パレスチナ人同士の殺し合いが、義務付けられているということだ。そのことは、ほとんどのアラブのインテリは、気が付いているのだ。たとえ、オバマ大統領の真意がそうでなくても、これでは話は前に進むまい。