A・ネジャド氏が大統領選挙で圧勝

2009年6月14日

 イランで行われた大統領選挙で、現役のアハマド・ネジャド大統領が、圧倒的な結果で勝利した。全体の62パーセントの票が、彼に集まったということだ。

 アハマド・ネジャド氏に加え、カロウビ、レザーイー、ムサビ候補と、4人の大統領候補による選挙だったが、ムサビ氏が33パーセント得票した他は、まさに泡沫的得票で終わったようだ。

 改革派といわれるムサビ氏が大統領に当選し、イランが世界に向けて、門戸を開くようになるのではないか、という期待が相当内外であったが、結果は強硬路線を堅持する、アハマド・ネジャド氏の勝利ということになった。

 

 彼の勝因に幾つかの理由が考えられる。

第一は、彼が地方で金をばら撒いた効果であろう。一般の人たちは理想よりも、パンを選ぶのは何処の国も、共通していようから無理はないし、それだけ効果が期待できたのであろう。

第二は核開発を強引に進め、イランに対する外敵による脅威を、大幅に緩和させたということだ。

イランは核開発をしているとはいっても、核兵器を所持しているわけでも、核兵器を開発しているわけでもないが、核兵器を作るに到るおおよその段階を、超えたということであろう。そのことでも、十分に外敵による攻撃に対する、抑止効果があろう。

しかし、その選挙結果が、今後、イラン国民を幸福な方向に、導いて行くかどうかということになると、必ずしもそうは期待できないのではないか。述べるまでもなく、イランに敵対する各国は、アハマド・ネジャド氏の勝利を、歓迎していまい。アメリカのオバマ大統領が、アハマド・ネジャド大統領に、祝意のメッセージを送ったことが、報道されているが、腹の中は全く別なのではないか。

イスラエルもアメリカと並んで、あるいはそれ以上に、今回の結果を重く受け止めていよう。アハマド・ネジャド大統領は、これでますます自信が持て、核開発を早めていくことが予想される。

そうなると、イスラエルにあからさまに敵対する、アハマド・ネジャド大統領の国イランは、イスラエルにとって極めて危険な国家になっていく、ということだ。イスラエルのネタニヤフ首相は、国内右派の突き上げで、アメリカの意向とは異なる強硬対応を、検討せざるを得ないのではないか。

既に言われていることだが、イランが核兵器保有に向かっ、て猛進している(?)なかでは、湾岸諸国を始めとした中東の幾つかの国も、核装備を検討せざるを得まい。そうなれば、核兵器が商品として、闇ルートで取引されることもありえよう。

そうした状況では、イスラエルが核兵器の脅威を、感じなければならない国は、イランばかりか、複数のアラブ諸国とトルコ、ということになるのではないか。トルコは友好関係にあることから、イスラエルの感じる脅威は、アラブとはだいぶ差があろうが、それでもやはり危険を意識せざるを得まい。

エジプトとは、和平条約が締結されてはいるが、ムバーラク体制が 終えた後に、誰が大統領の座に登場してくるかで、状況は180度変化することもありうる。ムバーラク大統領の後継者に、彼の次男ガマール氏を推しかねた場合、エジプトではイスラエルに対する、強硬右派が大統領に就任することも、ありうるだろう。

今回行われた、イランの大統領選挙の結果は、その意味で中東地域全体に、衝撃波を与えるものであった、と見るべきであろう。問題は、イランとアメリカ、あるいは、イランとイスラエルだけの問題ではないということだ。

エジプト訪問中に、ある著名人は、「オバマ大統領の今回のエジプト訪問は、レバノンとイランの選挙を、計算に入れたものであった。」と評していたが、レバノンは彼の主張するように、親米派が勝利し、ヘズブラが敗北した形になったものの(必ずしも敗北とは言い切れないのだが)、イランの選挙結果は、逆だったということになる。

アメリカは今後、オバマ大統領が本心では、希望していないとしても、イランに対する、より厳しい対応を取らざるを得まい。これは、オバマ大統領にとっても、厳しい状況を生み出した、ということではないか。今後は、イスラエル・アメリカ・イランの間で、何が起こって行くのか、注視する必要があろう。