アフガン戦争とイラク戦争敗北の原因

2009年5月24日

昨日、イラクのアフガニスタン化の危険性について触れたが、これは簡単な問題ではない。極めて危険なものだということを、あえて強調したい。

 ビンラーデン率いるアルカーイダの猛威が、世界中で問題になっているが、アルカーイダの危険性とは、国境が無い敵であり、リーダーがいない敵なのだ。そのことは、アルカーイダに敵対する国家は、どこまでを戦闘地域にしたらいいのかを、特定することができない。つまり、戦闘範囲が不明確だ、ということだ。 

そして、そのことは戦闘状況が優位になっても、交渉すべき相手がいないということであり、結果的に戦闘は、何時までも終わらないということだ。このような形に、アメリカのアルカーイダとの戦争が、なってしまう危険性は、私が既に1998年に指摘していた。

当時、拓殖大学の年間論文集と、月刊海外事情にそのことを書いた。確か「バーチャル・イスラム帝国の誕生」といったタイトルを、付けたと記憶している。その原因は、インターネットの普及と、衛星テレビ放送の拡大、そして銀行のオンライン・システムが、世界中を包んでしまったからだと指摘した。つまり、これらの3要素が、世界中のイスラム教徒を反米の怒りで結束させたのだ。残念ながら、誰もその分析に、興味を示す者はいなかった。

アフガニスタンの戦争で、大英帝国が敗退し、ソビエトが敗退し、いまアメリカが苦しんでいるのは、アフガニスタンの戦争が、このアルカーイダとの戦争に、類似しているからだ。

アフガニスタンはいまだに国家ではない。部族集団の集合体に過ぎないのだ。従って、各地域にはそれぞれのリーダーがおり、彼らが全てを決定しているのだ。日本政府が莫大な援助をしても、状況はなんら変わらない構造に、なっているのだ。

現実に、カルザイ大統領は首都カブールを一歩出たら、何の影響力も持っていない。そのカブールの支配ですら、外国の軍隊に全面的に依存しれば、維持できないというのが、カルザイ大統領の真の姿なのだ。

それをあたかも、カルザイ氏がアフガニスタン全土を統治している、大統領のように持ち上げているのは、アメリカの都合でしかない。日本政府はそのアメリカの擁護に重点を置き、アメリカとの付き合いで、アフガニスタン援助をしているに過ぎない。そんなことは、アフガニスタン政府が一番よく分かっていよう。

各地域を部族長が支配しており、彼らは外国からの援助金が、自分たちの懐に入るときは、政府に協力する姿勢を見せるが、それは長続きしない。そして勝手に、アメリカとの戦闘を繰り返すのだ。

アメリカ軍がひとつの部族に攻撃をかけ、一定の戦果を挙げても、他の部族が戦闘を仕掛けてくるので、何時までも終わらないのだ。それはまるで「もぐらたたき」のようなものであろう。

アメリカは各部族のことを、タリバンとかアルカーイダという名称でまとめて呼ぶことにし、各部族集団との戦闘を、あたかもタリバンやアルカーイダという統一体との、戦闘であるかのように、見せかけているに過ぎない。その方がアメリカ政府にとって、アメリカ国民や世界に対し、都合のいい説明が出来るからだ。

 イラクの最近の状況を見ていると、イラクの状況もアフガニスタンの状況に、似てきている。イラク共和国、マリキー政権、スンニー派、シーア派、クルドというくくりが、一般的に使われているが、イラクの現実はそんな簡単なものではない。

 イラク共和国はいまだに定着していない、アフガニスタン政府と同じようなものだ、といっては言いすぎであろうか。マリキー政権もアメリカの完全庇護の下でのみ、存在し続けられるものだ。

 そして、スンニー派もシーア派もクルドも、その内実は何十というグループに分かれているのだ。一般には、イラク国民は三つのグループに分けて、説明されているが、それはあくまでも、便宜上のものに過ぎないのだ。

 イラクもアフガニスタンの場合と同じように、地域単位や部族単位、宗派内各組織など、もろもろのグループがイラクの国会入りを画策し、それを果たし、その国会議員が各グループの代表として、マリキー政権から金を分捕っている、という状態ではないのか。

 アメリカはイラクの場合も、アルカーイダという組織名を、前面に出すことによって、現実をごまかしているのではないか。各グループは必要に応じてテロを実行し、自分の側が有利になるようにしていよう。

アメリカの関連の側からも、イラク駐留を長引かせることによって、利益を得ようとしている者がいるかもしれない。もちろん、外国の勢力がイラクの混乱状態を、長引かせようともしているだろう。

結果的に、イラクの状況は「アフガニスタン化」よりも、もっと複雑になってきているのではないか。その推測が当たっているのであれば、アメリカは今後、ますます苦しい状態に追い込まれよう。

アメリカは緒戦において、完璧ともいえる勝利を挙げることが出来た。それは、最新の科学技術が生み出した兵器と、新戦略によるものだった。従って、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官の作戦は、大成功だったといえよう。 

しかし、その勝利は地上での戦闘に移ったときから、アフガニスタン戦争と同じパターンに変わったのだ。出口は容易ではあるまい。