ムバーラク大統領の失意は今後にどう影響するか

2009年5月21日

 エジプトのムバーラク大統領は、だいぶ前から癌を患っていると言われながらも、全くその様子を見せず、81歳の高齢にもかかわらず、外交・内政面で敏腕を振ってきていた。

 しかし、数日前に長男アラーア氏の長子、ムハンマド(12歳)が病死して以来、相当に落ち込んでいるようだ。それはムバーラク大統領が、予定していた訪米を、急遽キャンセルしたことから分かろう。

 今回のムバーラク大統領の訪米は、オバマ大統領が中東を訪問し、カイロで彼の中東問題解決への取り組みの姿勢を、中東諸国に向けて発表する、段取りになっていたのだ。

ムバーラク大統領の訪米は、それを公表する前の、エジプト・アメリカの意見調整の、機会であったと思われる。つまり、エジプトにとってもアメリカにとっても、中東諸国全体にとっても、きわめて重要なものであったはずだ。

 責任感の強いムバーラク大統領が、それにもかかわらず、訪米をキャンセルしたのには、幾つかのわけがあると思われる。

第一に考えられるのは、これまで職務上の緊張が、彼をして健康であり、活発な行動を取らせていたのであろうが、孫の死のショックで、一遍に緊張が弛んでしまった、ということであろう。

 第二に考えられることは、ムバーラク大統領の最愛の孫の死亡により、自分の長命が疎ましくさえ、思われたのではないだろうか。ムバーラク大統領はいま「自分の人生に一体、何の価値があったのだろうか。」と考えているかもしれない。

 問題は、今回の訪米キャンセルが、単に孫の死の悲しみだけで、終わるのではなく、今後のムバーラク大統領の政治活動に、大きな変化が出てくるのではないか、ということが懸念されるのだ。

 エジプトはいま、非常に困難な時期を迎えている。国内経済は悪化の一途をたどっており、貧困層の生活は、より一層厳しいものになっている。加えて、イランがレバノンのヘズブラを使い、エジプト国内への関与と工作を、行っているという情報もあるのだ。

 ヘズブラはイランから得たと思われる資金で、エジプトの通貨を買い、ヘズブラ、アハルルベイト、フッブッラーなどと印刷し、エジプトの貧民にばらまいているということだ。同時に、スンニー派がほとんどのエジプト国内で、シーア派への改宗を工作しているとも言われている。

 「弱り目にたたり目」という言葉があるが、ムバーラク大統領には気を取り直して、国内外政治に神経を集中していただきたいものだ。彼はエジプトの大統領であるだけではなく、アラブ世界全体の代弁者でもあるのだから。

 ムバーラク大統領のお孫さん、ムハンマド君のご冥福をお祈りします。