イスラエルの強硬派といわれる、リクード党党首のネタニヤフ首相が、訪米に出発した。彼の訪米でオバマ大統領が、どのような中東対応を示すかが、世界の耳目を集めている。
多くの中東関係者は、オバマ大統領が思い切った中東和平に、乗り出すだろうと予測している。それは、クリントン大統領やブッシュ大統領が、中東和平に取り組んだのは、彼らの任期の末期だったからだ。結果的には時間切れの形で、いずれの場合も中途半端な形で、アメリカの中東和平仲介工作は、終わっているのだ。
それに対し、オバマ大統領の場合は、就任当初から中東和平を実現する方針を示し、具体的に、イスラエルとパレスチナの二国家が、出来なければならないという、基本的な姿勢を示したからだ。
したがって、オバマ大統領は任期中の全期間を掛けて、中東和平を実現するだろうという、期待が集まっているのだ。そして、彼の補佐役であるエマニエル首席補佐官が、AIPAC(全米ユダヤ人の団体)での講演で、イラン問題とパレスチナ問題は、連関していると語っている。
彼はイスラエルが、イランの核の脅威を訴えるのであれば、イランが主張しているパレスチナ問題を、解決すべきだと語ったことが、オバマ大統領の中東和平への取り組みを、より強調するかたちになっている。
しかし、実際はそうであろうか、という疑問が沸いてくる。ひとつの問題を真剣に解決しようとするのであれば、アメリカは自身がそれに真剣に取り組むべきであって、舞台に立つ主役を、何人にもすべきではあるまい。
そんなことをした場合、結果的に責任は薄くなり、誰も主役であるべき、アメリカの言うことを、真剣には受け止めなくなるからだ。
オバマ大統領は中東和平実現に向けた、基本的な方針は示したが、アメリカが責任を持ってそれを推進していく、とは言っていないのではないか。彼は欧州諸国やロシアを主役に立て、まさにトロイカで問題を解決する方針を、同時に示しているのではないか。
世界経済を破滅に導いたアメリカが、ことあるごとに、世界が一体となって、解決に取り組むべきだと言い、オバマは各種の国際会議で、上手な聞き役に徹してもいる。
アメリカに同情して、このオバマ大統領の姿勢を評価すれば「弱体化したアメリカが、世界と協調して、問題の解決に当たろうという、謙虚な姿勢を示した。」ということになるのであろうが、実際にはそうではなく、いたって気楽に、責任の分散を考えているのではないか。
オバマ大統領がネタニヤフ首相との会談で、イスラエルに圧力を掛けることを、アラブの穏健派諸国は期待しているが、実際にはそうはなるまい。いたって気の抜けのする結果が、この会談から出てくるのではないかと予測している。
結果がそうなれば、ますますイランは自信を強め、強硬な立場を示し、ハマースやヘズブラといった強硬派組織が、中東のなかで存在感を、高めて行くのではないか。それは、穏健派アラブ諸国の国内情勢を、不安定化していくことに繋がろう。
オバマ大統領はその意味で、しっかりした姿勢を、ネタニヤフ首相に示すべきであり、今回の会談は、中東の今後を決める、重要なものとなるのではないか。オバマ大統領に真摯な中東問題への取り組みを期待したい。
たとえそれが彼の身の、安全を脅かすものであったとしても。そうでなければ、会談後の彼の政治的力量は消え、≪口先だけの男≫という軽い評価が定着し、彼の残りの大統領任期は、意味の無いものに終わるのではないか。