イラク・バアス党員が政府内部に復帰

2009年5月17日

 イラクのエルビルで開催された国際会議の、会議参加者多数と個別に話し合うことができたという報告は、既に何度か書いたが、そのなかで、どうしても気になって仕様がない情報があった。

それは現在、相当数のバアス党員が、イラク中央政府内に復帰している、という情報だった。シーア派の会議参加者や、クルド人の参加者が語るところによれば、相当数のバアス党員が、イラク中央政府の役人に、復帰しているということだ。

なかでも、軍や警察、情報機関には、多のバアス党員が復帰しており、実質的に、バアス党員が情報部門を、牛耳る形になっていると言っていた。

述べるまでもなく、バアス党とはサッダーム・フセイン体制下で、政府役人の多くが参加していた、当時の与党だ。会議に参加したスンニー派の人は、私に自分たちが置かれている不利な立場を、るる説明した後、「今でもサッダーム・フセイン大統領を尊敬している、彼は最後までイラクから逃げ出すような卑怯なことはしなかった。」と語っていた。

そこで「貴方はバアス党員か?」と私が訊ねると、彼は「そうだ。」と答えていた。その彼も、現在では地方議員に就任している。つまり、どのレベルかは別として、彼も政府機関の内部に、自分の居場所を確保しているということだ。

以前、サダム体制下で外交官として日本に来ていた友人は、奥さんがサッダーム・フセイン大統領の親戚筋の人物だったが、一時期バグダッドを離れ、故郷のテクリートへ避難していたが、現在ではバグダッドに戻り、スンニー派の副大統領の補佐官を勤めていることを、友人のイラク人から聞いている。

一体これは何なのだろうか。考えられることは、バアス党とシーア派のマリキー首相派、そしてアメリカが何らかの密約を交わした、ということではないのか。そうでなければ、治安の最高責任のポジションである情報機関や、軍、警察にバアス党員が復帰するということは、考えられないからだ。

その密約が交わされた結果であるとすれば、それはやはり、かつて国内の治安を担当していた、経験豊かなバアス党員の情報機関員や、軍、警察の幹部と中堅を外しては、新生イラクの治安維持が不可能だという、判断によるのではないか。

アメリカは来年中に、大幅な軍の撤退を公言しているが、その前にしかるべきレベルの治安状況を、創らなければなるまい。そこで密約がシーア派のマリキー首相派と、バアス党員、アメリカとの間に、成立したのではないかと思われる。

もしその密約が成果を生み、イラク国内の治安状況が改善して行けば、イラクの安定化を、将来に希望が持てるということだ。しかし、その場合には、最終的にバアス党員が、再度イラク国内政治の中枢に台頭してくる可能性が、高いということになろう。

しかし、それのような状態がもし将来、実現されるとしても、それには不安定な状況が、繰り返された上でこのとであろう。なぜならばクルド人やシーア派のイラク国民の間には多数の、家族親族を殺された人たちがいるからだ。 

彼らは、たとえマリキー首相が、治安改善を目的としたものであるとしても、バアス党員の権力復帰への道を、断とうと抵抗することが、予測されるからだ。従って、近い将来の、イラク国内安定化への希望は、まだ抱かないほうがよさそうだ。