私の友人に年上の人と、年下の人がいる。年上の人は私よりも2歳上で、多少神がかりだが、感の鋭さが売りだ。もちろん、いろいろのルートから、データを取り寄せているのだが、その上で彼は感を働かせて、状況に対する予測を立てる。もちろん、すごい正解を出す場合もあるが、全く外れる場合もある。
年少者のほうは30歳ほど下だが、あなどれない相手だ。彼の本業は物理学であり、常識的には国際情勢、なかでも中東情勢になど、ほとんど関係ないのだが、趣味として脳が疲労したときに、中東情報を集め自分なりに分析し、予測をしている。こちらの確立は比較的高いと評価すべきだろう。
彼に言わせると、アメリカはイラク戦争で、これまでとは全く異なる戦術を展開したため、完璧な勝利を収めたというのだ。その意味では、チェイニーやラムズフェルドは、正しい判断をしたということになる。新しい戦略戦術は、統治には効果をもたらさなかっただけだということだ。
このイラク戦争を機に、イスラエルは戦争そのものに自信を持ち、ロシアや中国は驚嘆したということだ。年少の友人は、従ってロシアはイスラエルから大慌てで無人機を購入し、その代償として、イランへのS-300ミサイルの輸出をしないだろうという予測をしている。
それでは自分はどうかというと、あいも変わらず印刷物や、各国のインターネットから情報を取り出し、日誌を付け、記事を読んでは頭を少しひねり、何が起こってくるのかを考えている。
言うまでも無く、中東TODAYの読者がご存知の通り、私の場合も予測の正解率はそう高くはない。人に冷やかされたときは決まって「長島選手の生涯打率はいくらでした、3割きっていたでしょう。」と答えることにしている。
前述の二人には、欠点と長所があるように受け止めている。年長者のほうは、基礎的な努力に感を加味しているが、場合によっては思い込みが、間違った判断をどんどん深くして行く、場合があるということだ。
若い友人のほうは、物理学的な手法で事実だけを集め、それを組み合わせて結論を引き出す。当然といえば当然の物理学者の手法といえよう。しかし、この場合もやはり、全く問題がないわけではない。
国際情勢は確かに、大国の影響力や軍事力の差、経済力の差や人口などで、大まかなところは決まってしまうのだが、それだけではない部分がある。それは民族感情であり、人の心理だ。中東最大の軍事大国イスラエルが、軍事面では勝利しながらも、精神面ではレバノンの単なるゲリラ組織でしかない、ヘズブラに敗北した。
世界の超大国であるアメリカは、イラクに軍事的勝利をしたものの、その後の統治面では苦戦し、4000人を超える死者を出している。このヘズブラとイラクの場合、イスラエルやアメリカが戦った相手は、国家ではなく集団だったということに、留意すべきだろう。
それは、アフガニスタンの場合も同じだ。アフガニスタンの反政府勢力はタリバンとされているが、それはアメリカのアフガニスタン対応の上での、便宜的なくくりでしかない。アフガニスタンには幾つものグループが存在し、アメリカ軍に対抗しているという点を、見逃すべきではなかろう。
それでは私の場合はどうかというと、アラブ人をよく知っている、トルコ人をよく知っている、イラン人をよく知っているだけに(?)どうも感情移入が多い場合がある。結果的にそのことが、予測を狂わせる場合が多々あるのだ。
つまり、世界情勢の分析とは、感だけでも地道なだけでも、論理だけでもなかなか正解は、出せないということだ。そこで出てくるのが陰謀論だが、それはなるべく選択しないことにしている。
世界政治に陰謀がないとはいわないが、陰謀論を重く受け止めると、考えることや生きているのが、馬鹿らしくなるのではないか。床屋談義ならそれもいいが、専門家と自認する者は、やはり地道さで行くしかあるまい。
:後日長島フアンの方から、長島選手の生涯打率は3・05割だったというご指摘をいただきましたので訂正します。