イスラエル人の不安と日本

2009年4月25日

 だいぶ前に話になるが、イスラエル人(ユダヤ人)に「何処の国を訪問したときに、一番安堵感を抱くか?」と聞いたことがある。それに対して、イスラエル人は「日本とトルコだ。」と即座に答えた。

 確かにそうであろう。トルコにはオスマン帝国の時代に、スペインで起こったユダヤ人に対する弾圧の折、軍艦を送ってユダヤ人を救出したという、歴史的に評価されるべき功績を果している。

しかも、その後、オスマン帝国支配下にあってユダヤ人は、重要視され閣僚ポストにまで上り詰めたものが多いし、オスマン帝国支配下の各地で、経済活動の自由を、認められても来たからだ。

オスマン帝国に逃れたユダヤ教徒の多くが、あるラビの指導の下にイスラム教に改宗し、ドンメと呼ばれるようになったこともあり、トルコはユダヤ人にとっては、きわめて友好的な国家ということなのであろう。

他方、日本の場合はユダヤ人の移住が極めて少なかったこともあり、日本ではユダヤ人排斥の動きが、歴史上一度も起こっていない。それどころか、「ユダヤ人は賢く勤勉であり勇気ある人たちだ」という評価がほぼ定着してもいる。こうしたことが、イスラエル人に安堵感を抱かせる国として、トルコと日本が挙げられるのであろう。

しかし、今回、イスラエルのエルサレムを訪問し、キング・デービッド・ホテルで、イスラエル政府の要人たちと、昼食をとりながら話しているなかで、イスラエル人が日本に対する、不安を抱き始めていることを感じた。

私の両隣はイスラエル人だったが、彼らは二つのことを挙げて、日本のイスラエルに対する対応が、変わるのではないかという不安を述べた。そのひとつは、国連でのアハマド・ネジャド・イラン大統領の演説時に、何故日本代表は他の欧米代表と共に、席を立たなかったのか、という点だった。

この質問に対して、私は「日本代表は居眠りしていたのだろう。」と答えたあと、日本がイランの石油ガスに依存する量が、多いことを付け加えた。

続いて、イスラエルの人たちが質問してきたのは、麻生総理のイラン訪問の話だった。「何故いまの時期に、麻生総理がイランを訪問するのか、その目的は何か、、。」というものだった。

私はこのニュースを知らなかったので、正確に答えることは出来なかったが、イランの日本に対する期待が大きいことから、日本はイランとイスラエルとの緊張を、緩和する仲介が出来るのではないか、日本は核被災経験を持つ国であることから、イランが核兵器開発をしているのであれば、イランに対し交換条件を提示し、それを断念さるよう説得が出来る、唯一の国家ではないかと答えた。

イスラエルの人が、私の説明に何処まで納得できたかは分からない。彼らとの昼食の最後に、私は「最近のイスラエル人は気弱になっている。そのことが原因でイスラエル人は自分やイスラエルという国家を信用できなくなり、過剰なまでの防衛本能が働いているのではないか。イスラエル人は精神的に強くなるべきだ。それはあなたたちを一番安全にしてくれるのだ。」と私見を伝えた。

いま精神的に大きな不安を抱いているのは、被害者側、弱者の側のパレスチナ人ではなく、加害者側、強者の側のイスラエル人ではないのか。そのことを踏まえずしての、中東和平への貢献は意味を成すまい。