エジプトの閣僚がゲリラ戦法提案

2009年4月25日

 エジプトの宗教関係問題担当大臣、ムハンマド・H・ザクズーク氏が奇抜なアイデアを提案した。この提案に敏感に反応したのは、ヨルダン・タイムズと、エルサレム・ポストだ。

 ヨルダン・タイムズはヨルダンに在住する、パレスチナ人スタッフがほとんどであり、エルサレム・ポストは述べるまでもなく、イスラエルで発行されている新聞だ。両紙のスタッフは、この提案の意味するところを、正確に把握したようだ。

 このムハンマド・H・ザクズーク氏が提案した内容は「エルサレムにムスリムは巡礼に行け、エルサレムは第三のイスラムの聖地だ。そこに沢山のムスリムが巡礼に行くことによって、世界はエルサレムがイスラム教徒のものであることが分かるしエルサレム問題、パレスチナ問題について、その重要性を認識するからだ。」ということだ。

 ここで、ひとつ説明しておかなければならないことは、イスラム教の上で、重要なエルサレムのモスクは、金色のモスク(コバト・ル・サフラ)ではなく黒い色のモスクなのだ。黒い地味なモスクが、宗教的に重要なアクサ・モスクであって、金色のほうではない。このアクサ・モスクの場所から、イスラム教の預言者ムハンマドが、昇天したことを記念して、ウマイヤ朝のワリード1世によって建てられたものだ

 アラファト議長とPLOは、あたかも聖地エルサレムのイスラム教の象徴が、この金色のモスクであるかのような印象付け、アクサ・モスクは放置されてきている。金色のほうが見栄えがよいからであろうが、アラファト議長とPLOは、宗教的には間違った認識を、世界中にばら撒いてきたことになるのではないか。

エジプトの宗教関係問題担当大臣、ムハンマド・H・ザクズーク氏の提案したことは、実は平和的なゲリラ戦法なのだ。イスラム教にとってサウジアラビアのメッカやメジナに次ぐ、第三の聖地エルサレムへ多数のイスラム教徒が巡礼することを、イスラエル政府は止めることが出来ない。宗教の自由を犯すことになるからだ。

 しかし、多数のイスラム教徒のエルサレム巡礼を許可すれば、おのずからエルサレムがイスラム教徒にとって、どのような意味を持っているのかということが、世界中に知られることになる。

 同時に、そのことはイスラム教徒にとって、パレスチナ問題の重要性がどれだけ大きいか、ということを世界にアピールすることにもなるのだ。

 パレスチナ解放運動が、これまでエルサレムの解放を、世界のイスラム教徒に訴え、莫大な援助を引き出すことが出来てきたのは、こうした宗教的な理由からだ。

アラファト議長がエルサレムの解放を、パレスチナの解放と結びつけて訴えたのはこのためであり、世界のイスラム教徒はこれに呼応することが、宗教的義務になっているのだ。

しかし、現実にはアラファト議長のアピールも、後継者であるマハムード・アッバース議長の叫びも、何の効果ももたらさず、エルサレムのパレスチナ人居住区は、日に日にイスラエル側の侵食を許したままになっている。

ムハンマド・H・ザクズーク氏の平和的ゲリラ戦法に、世界のムスリムが呼応すれば、状況は激変するかもしれない。それは、エルサレムのパレスチナ人の経済状況改善にも役立とうし、イスラエルにとっても、観光収入が増すことになろう。

武装闘争だけが問題の解決ではないことを、同氏は訴えたのであろう。