レバノンの東部にあるベカー高原で、レバノン軍の軍人がテロ攻撃に会い、死傷者を出したというニュースが流れた。
軍人がテロにあって死傷することは、イラクを始めアラブ各国では、毎日のように起こっていることから、あまり気にしていなかったが、その関連の情報が、幾つものサイトに掲載されているので、記事を読んでみることにした。
この情報に対する、私のかすかな関心は、誰がレバノン軍人に攻撃を加えたのか、ということだった。レバノンでは1975年以来、15年にも及ぶ内戦が起こっているだけに、一寸した出来事が内戦に拡大していく、危険性をはらんでいるからだ。
記事を読んで分かったことは、ベカー高原のシーア派地区で、麻薬の栽培をしている農家を、取り締まっていたことが、そもそもの原因であったようだ。
この地域では、1975年から1990年に起こった内戦時に、ハシシやアヘンの栽培が、大っぴらに行われていた。そして内戦が終結し、国内情勢が安定化するに従って、政府の取り締まりが厳しくなり、麻薬の栽培は小規模化していたようだ。
今回、レバノン軍の軍人に対して、テロ攻撃が行われたのは、軍による麻薬の取引を監視する動きが、強化されていたことが原因だった。地域の部族は軍の動きに反発して、攻撃を加えたということのようだ。
これらの部族は、シーア派でありヘズブラの影響力が強いだけに、今後のヘズブラの行動に、関心が持たれる。スンニー派に比べて、シーア派の一部は、ハシシについては、あまり厳しく禁じていない側面がある。
エジプトのシナイ半島で、ヘズブラがガザへの武器密輸に際し、現金とハシシを始めとする麻薬を、協力者に提供しているという情報も流れている。それだけに、ヘズブラと麻薬との関連は、疑わざるをえまい。
ベカー高原の農家にしてみれば、換金作物の栽培では、生活が成り立たず、麻薬の栽培に、手を染めているということであろう。ヘズブラはそのような農家の麻薬栽培を、黙認していたものと思われる。
1970年代のレバノン内紛が始まって間もないころ、知り合いのレバノン人コマンドに「怖くないか?」と尋ねたところ、「ハシシを吸っているから怖くない」と答えていたことが、いまだに記憶に残っている。
テロ、ゲリラ作戦を起こすとき、麻薬は部分的に、必要悪になっているのかもしれない。いずれにせよ、今回の軍人に対するテロが、レバノン軍とヘズブラとの、武力衝突に発展することが無いよう祈りたい。
シナイ半島における、ヘズブラの動きを警戒するエジプト政府が、レバノン政府に対して、ヘズブラに対する強硬策を奨励する動きが、起こらないとも限らないだけに、今回のテロ攻撃は危険な要素を、含んでいるのではないか。