6月のイラン大統領選挙に、立候補を正式に表明している、ミル・フセイン・ムサビ氏が、アハマド・ネジャド大統領を痛烈に批判した。ムサビ氏はアハマド・ネジャド大統領について、原理主義者であり、国家の運営に失敗した人物だと批判した。
1980年から1988年の、イラン・イラク戦争時に、首相職を務めたムサビ氏は、イラン革命後の最も苦しい時期に、イランの国家運営の舵を取った、経験のある人物だ。
それだけに、ムサビ氏の批判は、説得力があるというものであろう。彼は今のイランの、政治のやりかたでは、西側諸国との軋轢を増して行くだけであり、国家としては大きな損失と、なっていると語った。
したがって、イランは西側諸国、国際社会との信頼関係を、生み出す努力をするべきだとも語っている。しかし、そうだからと言って、イランの国家や国民、科学者によって進められてきた、核技術の開発については、妥協しないという姿勢を示してもいる。
アハマド・ネジャド大統領が核開発を、今度の選挙の最も有力な材料(目玉)とすることを、考えていると同様に、ムサビ氏も核問題を軽視しない立場を、選択しているということだ。核開発はイラン国民の総意であり、これを否定する者は、国民の支持を失うことが明白だからだ。
ムサビ氏はアメリカとの関係については、バラク・オバマ大統領の「チェンジ」に期待する、様子を見ようという立場だ。また、アハマド・ネジャド大統領が否定的な立場を採っている、ホロコースト問題について、意見を求められたのに対しては、「イスラムはあらゆる殺人に反対する。たとえ一人が殺害されても、それは虐殺とみなす。」と答えている。
加えて「しかし、なぜ今パレスチナ人がそのつけを払わせられているのか、理解し難い。」とも語った。
この発言から、ムサビ氏は現段階で、ホロコーストを否定することも、肯定することも、極めて微妙だと判断しているということがわかる。もし、ホロコーストを否定すれば、イスラエルとの関係修復の、可能性はなくなるであろうし、イスラエルを挑発することにもなろう。
それは、イスラエルによるイラン攻撃を、現実のものにする危険なものなのだ。同時に、ホロコーストを否定すれば、せっかく伸びかけている、アメリカからの関係改善の手が、引っ込められてしまうということでもあろう。
また、明確にホロコーストがあったことを認めた場合には、イラン国民の支持を、失うことになろう。したがって、ムサビ氏は微妙な答え方をしたのであろう。68歳の老練政治家らしい、答弁ではないか。