不安感が強硬論を拡大させる中東諸国

2009年4月 1日

 結果的に、イスラエルは強硬派政党と言われている、リクード党を中心に組閣されることになり、その内閣がクネセト(イスラエルの国会)で承認された。

 イスラエルの新内閣は、30人の閣僚によって構成され、そのうちの約半数の14人が、リクード党の議員で占められ、やはり強硬派と言われている、イスラエル・ベイトヌ党の議員が5人入閣している。

 イスラエル・ベイトヌの党首リーバーマン氏は外相に就任し、穏健とされる労働の党首バラク氏が、国防相に就任したことは、せめてもの救いであろうか。宗教右派のシャス党からは、住宅相、国務相、宗教相が誕生している。このことは、今後の西岸地区への入植の拡大が、懸念されるのではないか。

 今回のネタニヤフ内閣結成に、真っ向から反対していたツビ・リブニ女史は、この新内閣について「ろくな人物がいないだめ内閣だ」という非難の言葉を発している。

 ネタニヤフ首相は、首相就任早々の段階で「イスラム原理主義者たちが、イスラエルを破壊する気だ」と敵対的な立場を鮮明にしている。この彼の発言は、今後のイスラエル政府による、イスラム諸国やイスラム教徒への対応を、明確に示唆しているのであろう。

 第一には、イスラエル国籍を有する、パレスチナ人に対する処遇が、厳しいものになるのではないか。それは国籍はく奪や、国外追放も含むのではないか。

 第二には、イランに対する対応を、今後も戦争を辞さず、という厳しいものになるだろうと思われる。イスラエルの先制攻撃の可能性は、いまだに否定できないし、アメリカ政府に対する、戦争を挑発する働きかけは、今後も続くと思われる。

 第三には、イスラエルに対して妥協しない、アラブ諸国に対しては、厳しい対応を行うということではないか。マスコミを使っての反政府キャンペーンに始まり、国内への工作もあり得よう。

 しかし、こうしたイスラエルの新内閣、あるいはネタニヤフ首相の強硬姿勢は、アメリカとの間にも、齟齬を生み出していくのではないかと思われる。アメリカは既に、以前のような「豊で」「正義の」「強い」アメリカではなくなっているのだ。

 いくらアメリカにとって、盟友のイスラエルであっても、アメリカの国益を大きく損ねる、危険性になることについては、明確にノーを言いだすものと思われる。それは、イスラエルの神通力を、消してしまうかもしれない。

 イスラエルは現在置かれている、自国の不安定な立場から、政府、政治家、国民のすべてが、強硬論者になりつつあるようだが。そのことは、イスラエルという国家そのものを、きわめて危険な方向に向かわせる、可能性があるのではないか。

 同様に、サウジアラビアでも強硬論が、台頭してきつつあるようだ。なかでも、イランやサウジアアラビアのシーア派国民に対する対応は、日に日に厳しいものになりつつある。サウジアラビア国内のシーア派教徒が起こした、メデイナでのデモをきっかけに、政府は厳しい対応をし、シーア派であるサウジアラビア国民に対し、逮捕勾留を含む厳しい措置を行っている。

 こうした流れのなかで、内相を務めていたナーイフ王子が、副首相に就任したことは、サウジアラビアの王位継承問題という観点からよりも、イランに対する対応から、見た方が正しいのではないかと思われる。

 今後、ナーイフ副首相は自国内に加え、湾岸諸国間で、そしてアラブ諸国の間で、イラン敵視論を主張していこう。最近、カタールのドーハ市で開催されたアラブ・サミットでは、アラブ首長国連邦が領有権を主張してきた、アブ・ムーサ島を、イランに返還させる決議が出されている。

 このサウジアラビアの昨今の動きも、イスラエルと同様に、近い将来に対する、不安感から醸成されつつある強硬論の、台頭によるものではないか。その結果は、必要のない緊張と、危険な武力衝突を生む、原因になりかねないのだが。