今週の月・火曜日にかけ、トルコのギュル大統領がイラクの首都、バグダッド市を訪問した。当初、他の都市も訪問することが検討されていたが、安全上の理由から、今回の訪問では、バグダッド市だけになったようだ。

2009年3月25日

 今週の月・火曜日にかけ、トルコのギュル大統領がイラクの首都、バグダッド市を訪問した。当初、他の都市も訪問することが検討されていたが、安全上の理由から、今回の訪問では、バグダッド市だけになったようだ。

 トルコの大統領がイラクを訪問するのは、33年ぶりだと言われているが、それだけ歴史的な訪問が、どのような成果を上げたのか、非常に気になるところだ。

 イラクとトルコとの話し合いは、極めて順調だったようだ。双方は、PKK(クルド労働党)に対する対応で、意見の一致をみている。イラクのタラバーニ大統領(クルド人)はPKKに対し、「武器を捨てるか、イラク領土から出ていくか」の選択を迫った。

 これと呼応して、トルコのギュル大統領は、「武器を捨てて投降する者に対しては、特別の恩赦を与える」ことを表明している。つまり、PKK問題の解決に向けて、イラクとトルコとは、完全に立場を一致した、ということであろう。

 こうした進展が、なぜ見られたのかというと、イラクの側には、今後に対する不安が、あるからではないか。アメリカ軍がイラクから撤退した後、イラク国内での武力衝突が、懸念されているからだ。

 それは、イラクのクルド、シーア、スンニーのいずれのグループも、望むところではあるまい。安定の中で、イラクの再建がスムーズに進むことを、いずれのグループも、望んでいるものと思われる。

 クルドは1991年以来、自治権を手にし、クルド特区を発展させてきたが、もし今後、イラク国内で各派の対立が嵩じ、武力衝突にでもなった日には、これまでの努力が、水泡に帰することになろう。

 ギュル大統領はバグダッド訪問時に、クルド自治政府のバルザーニ氏に会い、PKK問題が解決したら、トルコとクルドとの間には、国境はなくなると語っている。ギュル大統領はバルザーニ氏に対し、「隣人であり親戚だ」とさえ語っている。

 トルコにとっては、クルド地区を足掛かりとし、今後のイラク再建に、大きく関わりたいだろうし、クルド自治政府もイラク中央政府も、トルコとの協力無には、再建を進めていけない、と判断しているようだ。

 イラク中央政府にとっては、自国内の安定への協力と、トルコからの水資源の確保が、今後の死活的な問題になっているからだ。3月半ばに、トルコのイスタンブールで世界水会議が開催されたが、トルコはこの機会で、水が世界で紛争の種になることを強調し、トルコの水資の価値のアピールと、その戦略的活用を主張している。

 こうしたトルコとイラクとの友好協力の流れに対し、PKKは当然のことながら反発し、「武器を捨てることはない」と語っているが、現状は極めて厳しさを増している、ということではないか。それが決定的になるのは、トルコ南東部デヤルバクル市での、地方選挙の結果であろう。

もし、トルコの与党AKPが勝利すれば、平和路線は進み、PKKは弱体化していこう。もし、AKPが敗北すれば、PKKが台頭し、トルコ南東部の民主化は後退していこう。幸いなことに、現在の状況はAKP有利、ということのようだ。