イラクの大統領には現在、クルド人出身のタラバーニ氏が就任しているが、彼はトルコのイスタンブールで開催されている、世界水会議に出席し、フッリエト紙とのインタビューを行った。
このインタビューの中で、タラバーニ大統領は苦渋の発言をしている。つまり、クルド人が考えているクルド国家の設立は、夢・ドリームに過ぎないというのだ。
タラバーニ大統領はトルコ、シリア、イラン、イラクに住むクルド人たちが、一体となるクルド国家を設立することは、不可能だとし、もしそのような国家を創ろうとするのであれば、世界戦争が起こらなければならないだろう、と語っている。
そして、イラクに居住するクルド人も、イラクの憲法投票で95パーセントが、イラク国民としてのクルド人の立場を守ることを、支持したと語っている。
イラクやトルコ、イラン、シリアのクルド人が一体となって、国家を作ろうとすれば、当然、イラクもシリアもトルコもイランも、その試みを潰そうとし、戦争が起ころうというのだ。その戦争に勝つだけの力は、クルド人には無いということだ。
そして、もしそのような苦難の末に、クルド国家が出来上がったとしても、その国家はトルコ,シリア、イラク、イランに囲まれ、陸の孤島となってしまい、窒息する運命にあるということであろう。
タラバーニ大統領がトルコのフッリエト紙とのインタビューで、クルド人の本音を語ったことは、少なからぬ反発を、クルド社会の中に生み出そうが、それはあくまでも、タラバー二大統領が語る、ドリームでしかあるまい。
これまで、クルドの活動を裏から支えてきたアメリカは、つい先日、PKKに対して武器を捨てて、トルコ国民に復帰しろと呼びかけている。つまり、もうPKKの活動を支援しないということであり、クルドの独立国家を認めることもないということだ。
アメリカが段階的にイラクから撤退していけば、誰もが考えるその次のステップは、石油利権をめぐるクルド・イラク人とスンニー、シーア・イラク人との武力衝突であろう。
そのことを、タラバーニ大統領も予測できないわけがない。トルコとの良好な関係は、今後のクルド人の立場を、トルコ国内でもイラク国内でも、安全なものにしていくという判断からの、現実を直視した苦渋の発言であった、ということだ。