M・アッバースに脅威・バルグーテイの釈放

2009年2月19日

 イスラエルの刑務所に、5回(5生)の終身刑を受けて収監されている、パレスチナ組織ファタハの幹部、マルワーン・バルグーテイ氏が釈放される、可能性が出てきている。このとは少なからぬ不安を、マハムード・アッバースパレスチナ自治政府議長に与えているようだ。

 マルワーン・バルグーテイ氏は西岸で生まれ、西岸でパレスチナ解放闘争活動を継続してきた、いわば土地っ子であり、他のファタハの幹部のように、外国で革命闘争を展開してきた人物(革命貴族)ではない。したがって、西岸地区を始め、ガザ地区の住民の間でも、彼に対する評価は高く、支持を集めてきている。

 マルワーン・バルグーテイ氏の活動は、地に足を付けたものであり、占領下のパレスチナ人が、イスラエル側との間で、日々の生活条件改善の交渉に始まり、ゲリラ闘争をも含むものであったのだ。

 この人物がイスラエルの刑務所から出てくることになると、マハムード・アッバース議長の汚職体質が批判され、ベテランのファタハ幹部は、押し並べて非難を受ける可能性が高い。

 以前に、アラファト議長の後任としての、パレスチナ自治政府議長選挙に当たっては、マハムード・アッバース議長がマルワーン・バルグーテイ氏の立候補に圧力をかけて、阻止したといわれている。もちろん、そのことはマハムード・アッバース議長とイスラエルとの、合意によるものだったと思われる。

 したがって、今回のマルワーン・バルグーテイ氏釈放の可能性の裏には、イスラエル政府がマハムード・アッバース議長に、見切りをつけた可能性もある、ということにはならないか。

そもそも、ガザでハマースがファタハに抵抗し、ファタハを追い出すことになったのは、ファタハ幹部の汚職に原因があったのと同時に、マルワーン・バルグーテイ氏に対するマハムード・アッバース議長側の、立候補阻止を含む対応に、大きな原因があったともいわれているのだ。

言ってみれば、今回イスラエルがガザへの軍事攻勢をかけた遠因は、マハムード・アッバース議長のマルワーン・バルグーテイ氏に対する、対応のまずさにあったともいえよう。

マルワーン・バルグーテイ氏は現在、ダマスカスに亡命している、ハマースの代表者ハーリド・ミシャアル氏や、レバノン代表のオサーマ・ハムダーン氏、ファタハの反主流派幹部とも、連絡が取れているということのようだ。

マルワーン・バルグーテイ氏が釈放されることになれば、当然のこととして、これまで長期間に渡って実行されてこなかった、ファタハの執行部選挙の実施を主張するであろうし、マハムード・アッバース議長を含む、幹部の汚職を追及することになろう。

マハムード・アッバース議長は相当の覚悟をして、彼の釈放を待たねばなるまいということか。あるいは、イスラエルに対する大幅な妥協をして、マルワーン・バルグーテイ氏を、獄舎に繋ぎ止めてもらうようにするのであろうか。それはパレスチナ問題にとっては、大きなマイナスとなろう。