ドイツがヒトラーの時代に、多くのユダヤ人がドイツばかりではなく、ヨーロッパ各地で集められ、死のキャンプに送られたという、いわゆるホロコースト問題は、いまだに強力なインパクトを世界中に与えている。
しかし、ガザ戦争を機に、それまで密かに進んできた、ホロコースト問題に対する反対の動きが、世界各地で表面化し始めている。ヨーロッパ各国ではホロコーストは嘘だったという意見を主張する者が現れ、イスラエルの学者を学会の会議に参加させない動きが起こり、ドイツですらも、ホロコーストの真偽が問われるようになり始めている。
ガザ戦争でのパレスチナ人の被害が大きかったことと、ガザが完全に閉鎖されていた状態で、イスラエルによる攻撃が行われたことなどから、虐殺だと主張する者が増えたことが、反ユダヤ反ホロコーストの立場を採る人たちを刺激したのであろう。
こうなるとイスラエルや、その他の国に居住するユダヤ人にとって、きわめて危険な状態が起こってくることが予測される。すでにアメリカでも、サブプライム・ローンなどはユダヤ人金融家によって引き起こされたのだ、という意見が生まれ、ユダヤ人悪者説が広がり始めているからだ。
当然のこととして、イスラエルやユダヤ人組織は、この動きを阻止しようと考えているのであろう。そのような状況に対する、二つの異なる新たな動きが、イギリスとフランスから出ている。
イギリスでは反セムの動きを、阻止する動きが始まったのだ。つまり、反ユダヤの動きを阻止するという動きが、イギリスの中で起こり、イギリス政府はそれを支持している。
他方、フランスではドイツがヒトラーの時代に、ドイツ軍が支配したヨーロッパ各国で行った、ユダヤ人狩りと呼ばれる強制収容所への、ユダヤ人送致に、フランスのヴィシー政府が協力したということが、大問題となってきた。
このヴィシー政府によって、在仏の76000人のユダヤ人が強制収容所に送られ、生還出来たのはたった3000人だったということだ。これらの犠牲者の遺族が、フランス政府と交渉し、ユダヤ人遺族は補償金を受け取り、住宅を提供される、ということが行われてきた。そのフランス政府が支払った補償額は、合計で5億ユーロに達すると言われている。
しかし、フランスの裁判所はこの時期に及んで、これ以上の補償は行わないことを決めたようだ。現在フランスには50万人のユダヤ人が居住しているが、ヴィシー政権時代に行われた、ユダヤ人に対する非人道的行為が正式に認められ、それに対する対応が行われてきたということだ。
このフランス政府のホロコースト問題に対する対応は、ユダヤ人にとっては、一つの勝利であったのであろう。ユダヤ問題は今後、複雑な問題に拡大していく危険性があり、世界中で蒸し返す可能性があることから、軽視すべきではあるまい。