トルコのギュル大統領が、サウジアラビアを火曜日から訪問しているが、この訪問には二つの目的がある、とサウジアラビア筋や外交筋は見ている。
その二つの目的とは、トルコとサウジアラビアのビジネス関係を拡大する、ということが一つであり、もう一つは、拡大するイランの中東諸国への影響を、トルコに抑えてほしい、という戦略的な問題のようだ。
第一の経済関係についていえば、トルコとサウジアラビアとの通商規模は、20006年に20億ドルだったものが、2008年には50億ドルにまで拡大している。トルコ側はこれを、2013年までには150億ドルまで、拡大したいと望んでいる。
トルコとサウジアラビアとの、経済を始めとする関係の拡大は、トルコにAKP党(開発公正党)の政権ができたことに起因する。トルコの与党のポジションに、これまでのような世俗政党ではなく、イスラム教重視のAKPが就いたということは、サウジアラビア政府にとって、心地よいものになっているようだ。
そのことに加え、ギュル大統領をはじめ、多くのトルコ人がサウジアラビアでのビジネスに携わってきていることも、両国間の信頼関係醸成に、役立ってきたようだ。ちなみに、ギュル大統領の娘は、サウジアラビアのジェッダ市で生まれているのだ。
サウジアラビアはイランの湾岸諸国をはじめ、中東のアラブ諸国への影響力の拡大について、強い懸念を抱いている。それは、イランがシーア派の総本山国家であることに対し、サウジアラビアがスンニー派の総本山であることによろう。
サウジアラビアはパレスチナのハマースが、スンニー派イスラム教徒による組織であるにもかかわらず、シーア派のイランと深い関係にあるが、パレスチナ自治政府との関係から、なかなかハマースとの関係を、強化できないでいる。
今回、サウジアラビアはガザの住民に対する、10億ドルの援助を決定したが、パレスチナ自治政府に渡すべきなのか、あるいはガザのハマースに渡すべきなのか、悩んでいるのではないか。
その点、トルコはパレスチナ自治政府とも、ハマースとも良好な関係にあり、何らかの解決策を打ち出すことができよう。そして、イランとの関係でも、トルコはサウジアラビアと、良好な関係にあることと同時に、イランとも良好な関係にあり、イランの中東地域での突出について、助言を行うことができる、ということであろう。
加えて、サウジアラビアはトルコが単独でも、軍事大国であることに加え、NATOの加盟国であるという点にも、評価を寄せているものと思われる。イギリスが創り上げたオスマン帝国悪玉論が、ここにきて塗り替えられる方向に、シフトし始めたようだ。そのことには、エルドアン首相のワールド・エコノミック・フォーラムでの退席事件が、好印象をアラブ各国と、国民の間に生み出したようだ。
アラブ各国国民は、自国政府がイスラエルの蛮行に対して、何の行動も起こせなかったなかで、エルドアン首相の言動が、溜飲を下げさせたのであろう。
こうした状況を見てみると、今後、トルコとサウジアラビアの関係ばかりではなく、他の湾岸諸国やアラブ諸国との関係も、急激に回復していくのではないか。