トルコのエルドアン首相が、ワールド・エコノミック・フォーラムの会場で席を蹴って退場したことは、いろいろなリアクションを各方面に起こしている。
アラブのマスコミは、総じてエルドアン首相の蛮行(?)を、賞賛している。考えてみれば、女子供老人を無差別で、大量に殺害した国の責任者に対して、その責任を問うことや、非難の発言をすることは、蛮行とは言いきれまい。
退席したという行動自体は、いたって感情的なものとも取れるが、それは案外、エルドアン首相のパフォーマンスであったかもしれない。現実に、彼の行動がその後、トルコばかりではなく、イスラム世界で大歓迎されているからだ。
さてこのエルドアン首相の行動が、今後のトルコ・イスラエル関係にどう影響を及ぼし、どちらが損をし、どちらが得をするのかということが、イスラエルとトルコで、話題になっている。
イスラエル側は報復措置として、トルコの求めるイスラエル製兵器と、軍事技術の提供を止めるということが、持ち上がっている。イスラエルはトルコにIAI(イスラエル航空産業)や、ラファエル社の軍事技術を、今まで供与してきていたのだ。
このことに加え、イスラエル側はトルコ製品の輸入を抑える、ということだが、イスラエル・トルコ間の貿易取引額は40億ドル程度で、そのうちの60パーセントが、トルコのイスラエル向け輸出で占められている。言ってみれば、ほぼ半々ということであり、これは痛み分けであろう。
イスラエルからはトルコに観光客が、年間で60万人弱訪れているが、これは近くてイスラエル人にとって、安全な国ということであり、今後も不安がなければ、あまり減るとは思えない。
他方、イスラエル側が被る損失は、トルコの領海や領空で、軍事訓練であろう。戦闘機爆撃機の訓練に加え、海軍の訓練もトルコの領海を使って、行われてきていたのだ。
もちろん、トルコとイスラエルはこれまで、合同軍事訓練を行ってきている間柄だ。したがってワールド・エコノミック・フォーラムからの、激怒の退席という椿事が起きたからと言って、イスラエルとトルコの関係が、急激に悪化するとは思えない。
ガザ戦争で世界中から非難を受けるイスラエルにとって、トルコはやはり貴重な友好国であろう。これまでトルコが仲介していた、イスラエルとシリアの間接的な和平の交渉も、やはり継続する方がイスラエルにとって有利であろう。
イランとアメリカが関係改善の交渉を始めつつある中では、イスラエルが和平から遠のき、孤立する危険性もあろう。この喧嘩はトルコに軍配が上がったということか。あるいは、イスラエルにとってもトルコにとっても、国民感情をなだめるための、一時しのぎの、強硬姿勢だけなのかもしれない。もしこの推測が外れるとすれば、イスラエルは中東地域ばかりではなく、世界的に孤立する危険性があるということだ。