全ムスリムを代表するエルドアン首相の怒り

2009年1月30日

 スイスで開かれている、世界経済フォーラム(ダボス会議)で、トルコのエルドアン首相が会議の席上で激高し、途中退席するというハプニングが、世界中の話題を呼んでいる。

 ことの発端は、イスラエルのペレス大統領と、トルコのエルドアン首相が、それぞれにガザ戦争について、コメントする席で起こった。

司会役を務める、ワシントン・ポストのデヴィッド・イグナチュアス氏が、ペレス大統領には自国の立場を、25分間にわたって話させたにもかかわらず、エルドアン首相の発言は、12分で打ち切らせた。

このことに対し、エルドアン首相は不公平だと言い、席を蹴って会議場から退出したということだ。彼は会場から退出するに際し、「イスラエルは野蛮な行動をガザでしている。多くの死者がパレスチナ住民の間に出ている。」と叫んだということだ。

このエルドアン首相の激高した行動は、当然、国際会議に参加する者のマナーと考えるとき、非難されるべきものであろうが、退出するエルドアン首相に対し、アラブ諸国を代表する、アラブ連盟のアムル・ムーサ事務総長は、握手を求めたということだ。

つまり、世界中のムスリム(イスラム教徒)の気持ちを代弁して、エルドアン首相は語ろうとし、それを遮られたことによって、激高し退出した、ということであろう。

エルドアン氏が首相を務めるトルコは、イスラム国であると同時に、イスラエルとの正式な外交関係を有し、これまでも、イスラエルとアラブ(シリア)との和平実現に向けて、仲介努力をしてきている国だ。

今回のガザ戦争では、1300人以上のパレスチナ人が殺害され、6000人近い負傷者が出ている。これより先に起こったイラク戦争でも、何十万人(100万人を超えるという情報もある)ものイラク人が殺されているし、アフガニスタンでも、同様におびただしい数の、犠牲者が出ている。

そうした現状を踏まえ、ムスリムの間には、やり場のない憤りが、日に日に増大しているということだ。そうしたムスリムの感情を代表して、エルドアン首相は怒りを爆発させたのではないか。

一説には、エルドアン首相とペレス大統領は、旧知の仲であり、非常に親しい関係にある、ともいわれている。トルコのアナトリア通信の伝えるところによれば、この会議ののちペレス大統領がエルドアン首相に対し、謝罪の電話を入れたということだが、まんざら嘘ではあるまい。イスラエルにとってトルコは、地域で最も良好な関係にある、重要な友好国だからだ。

今回のエルドアン首相の怒りの爆発は、今後、トルコのイスラム世界での立場を強化することはあっても、弱めることにはなるまい。