ハマース抜きの中東和平交渉は意味をなさなくなった

2009年1月29日

 アメリカのカーター元大統領は退任後、中東和平の実現に長くかかわってきている。彼はパレスチナで最初に行われた、パレスチナ自治政府の議長選挙にも立ち会っている。

 これまで彼が見てきた、パレスチナ問題の現実を前に、現状を判断し「ハマースのかかわらない中東和平はありえない」と最近になって断言している。

 確かにその通りであろう。日本のマスコミでは、イスラエルやアメリカからの情報を踏み台にしているのか、ハマースはイスラム原理主義ガリガリの、非現実的な組織のように認識されているが、必ずしもそうではあるまい。

 確かに、ハマースはガザ地区のイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団の別動隊として組織されたものであることから、原理主義の立場にはある。ただし、この原理主義ということの意味は、「イスラム原理主義イコール暴力」ということではないのだ。

 たとえ、ハマースがイスラム原理主義の思想を、根底にしているとしても、これまでのハマースの活動には、賞賛すべき部分は少なくない。彼らは貧しいパレスチナ住民を支え、子供たちに勉強する機会を与え、医療面でも貢献してきている。

 そうしたボランテア活動の結果、ハマースの活動がパレスチナ人の間で評価され、当初22パーセント程度であったハマースへの支持が、現在ではマハムード・アッバース議長が支配する西岸地区ですら、78パーセント程度まで上昇しているということだ。 

 過去の経緯を振り返ってみると、ハマースが行動を起こし、結果的にパレスチナ問題に前進が見られたケースが幾つもある。パレスチナ人が武器を手にせずに始めた、イスラエルの占領支配への抵抗活動、いわゆるインテファーダは、結果的にオスロ合意を生み出しているのだ。

 ハマースは武器なしの抵抗運動を起こし、次いで武器を使ったイスラエルへの抵抗闘争を始めたが、それはマハムード・アッバース議長の所属する、ファタハの基本姿勢である「武力闘争の継続とパレスチナの解放」そのものなのだ。

 しかし、現在ではファタハも、パレスチナ闘争全体をまとめるPLOも、武力闘争は放棄し、パレスチナ革命闘争の幹部たちは「革命貴族」になり下がっている。外国からの援助は、彼ら革命貴族によって山分けされ、パレスチナの大衆には、ほんの一部しか届いていないのだ。

 そうした、パレスチナ闘争の幹部たちの堕落は、イスラエルとの交渉に、何の成果も生み出してこなかった。過去60年以上の武力闘争と、交渉の繰り返しは、結果的にパレスチナの地を、イスラエル側に占領させ、それを固定化させるに過ぎなかったということだ。

 つまり、パレスチナ革命闘争の幹部たちは、イスラエルという敵についての研究を、行ってこなかったということであろう。その点、ハマースは真剣にイスラエル研究に取り組み、硬軟両方を使い分けてきたのであろう。

 今回のガザ戦争での死傷者の数は、痛ましいレベルに達したのではあるが、その結果、世界のパレスチナとイスラエルを見る目線が、大きく変わったことは誰も否定できまい。

 バチカンとイスラエルとの関係が劣悪になり、ヨーロッパ全土で、反イスラエルの機運が高まっている。イスラエルはこうした状況変化について、「過去最高に反セムの感情が高まっている」と評している。

 アラブ諸国では、好むと好まざるとにかかわらず、ハマースを認知する方向に、動き出している。ムスリム同胞団を生んだエジプトでは、同組織を非合法としているが、ハマースがガザ問題の当事者であることから、パレスチナ自治政府と同じように、話し合いの相手にせざるを得なくなっている。

アラブの革新派諸国や、パレスチナ自治政府から援助を強要される湾岸諸国では、マハムード・アッバース議長の率いるパレスチナ自治政府と幹部が、汚職構造であることから、ハマースに対し好感を抱く傾向が、増大してきている。

こうした傾向は、アメリカやイスラエルが、ハマースを交渉の主役として認めず、否定し続けたとしても、近い将来、ハマースが完全にパレスチナ問題の、中心に位置することが予想されるのではないか。

そもそも、ハマース出身のイスマイル・ハニヤ首相は、正式な選挙で多数票を獲得して、就任した人物であり、ハマースとファタハとのガザ闘争後に、マハムード・アッバース議長が指名した、ファッヤード氏の首相就任は、非合法なのだ。

これを認めようとしないマハム―ド・アッバース議長も、1月9日の段階で、彼の議長職の期限が切れているにもかかわらず、居座り続けているに過ぎないのだ。つまり、非合法なのはマハムード・アッバース議長であり、彼が強引に指名した、ファッヤード首相なのだ。

日本はそれを承知の上で、パレスチナ自治政府に対応しているのであろうか。そうであるとすれば、あまりにも不公平であり、イスラエル・アメリカ依存が強すぎるのではないか。もし、そのことを知らないでの対応であれば、愚かとしか言いようがなかろう。