トルコのエルドアン首相が、イスラエルのガザ侵攻に、強い不快感を示す発言をしたことが、イスラエルに相当のショックを与えていた。イスラエルにしてみれば、トルコは中東地域にあって、唯一の温かい関係のある国だからだ。(エジプトとヨルダンも、イスラエルとの外交関係を持つが、これらふたつの国は、いずれも冷たい関係といわれて久しい。)
エルドアン首相は、イスラエルのガザに対する攻撃が、あまりにもひどいという判断から、厳しい発言をしたのであろうが、トルコは長い歴史を持つ国だけに、このエルドアン首相の一言では終わらせていない。
イスラエルのツビ・リブニ外相が、トルコ訪問の意向を打診したとき「停戦を行う意思がないのであれば歓迎しない。」と冷たく訪問を断った、トルコのアリ・ババジャン外相は、コソボを訪問した折に、イスラエルとの関係を記者団に問われ「たとえどんなに厳しい状況下にあっても、トルコはイスラエルとの連絡を断つようなことはしない。」と語っている。
確かに、現段階では、まともにイスラエルと話し合える国は、中東のなかでトルコだけであろう。そのトルコがもし厳格に、イスラエルとのコンタクトを止めてしまうようなことになれば、どの国もイスラエルに対し、停戦を呼びかけることも、イスラエルとハマースとの仲介を、果たすこともできなくなろう。
緊急アラブサミットを開催して、ガザ問題への対応を、話し合う予定だったアラブ諸国が、エジプトとサウジアラビアの反対で、開催できなくなってしまっている。
アラブ諸国の多くが、最近になって、トルコの役割に期待を寄せているのは、そのためだ。エジプトがハマースとの話し合いをする折に、トルコが立会人になったのも、こうした事情によろう。
トルコはハマースに対して、彼らを撲滅するのではなく、生き残る余地を与えてやる必要がある、という考えを明らかにしている。つまり、トルコはハマースを、中東政治の表舞台に立たせ、重要な一員として処遇するべきだ、と主張しているのだ。
現実に、ハマースはパレスチナ人の間で、ファタハに勝る支持を獲得しているし、アラブの国々のなかでも、ハマースを立派な政治組織として、認めている国もある。
それが、より公式な形にできないのは、パレスチナをファタハとハマースに、分裂させないという、政治的建前論に基づく、配慮からであろうが、それは現実に即しているとは言えまい。トルコの老獪な外交手腕に期待したいものだ。