シリアのアサド大統領が、非常に意味深長な発言をした。イスラエルのエルサレム・ポスト紙とのインタビューのなかで、彼は「レバノンのヘズブラは私とは関係ない、ヘズブラは国境のあちら側におり、パレスチナのハマースもシリアの国境の向こうにいる。したがって、もし、イスラエルが平和を求めるならば、3つの相手と交渉すべきだ。」といった内容の発言をしたのだ。
このアサド大統領の発言の内容と、それに対する反応には、幾つもの重要な要素が、含まれているものと思われる。レバノンのヘズブラはいままで、イランとシリアの支援を受け、かつ政治的な関与も受けて、活動してきた組織だ。いわば、ヘズブラはレバノンにおける、シリアのフロント的組織なのだ。
換言すれば、レバノンのヘズブラ組織は、シリアとイランのレバノンにおける、代表のような役割を、果たしてきていたのだ。その組織を、シリアとは関係ない、とアサド大統領が言ったということは、今後のシリアとヘズブラとの関係に、悪影響を与えていこう。
もちろん、アサド大統領が「ヘズブラとは関係ない」発言したのは、あくまでもイスラエルが、レバノンのヘズブラはシリアの影響下にあるのだから、シリアが真にイスラエルとの和平を望むのであれば、ヘズブラの反イスラエル活動を、押さえる義務がシリアにはある、ということに対する反論に過ぎないのかもしれない。
アサド大統領はインタビュアーの質問に、軽く答えたのだといえばそうかもしれないが、イスラエル側はこのアサド大統領の発言を「ヘズブラはシリアとは関係ないから、イスラエル軍がヘズブラを、徹底的に攻撃したとしても、シリアは手も口も出さない。」という意味に捉えよう。
イスラエル側がアサド大統領の発言をそう理解し、徹底的な攻撃を加えた場合、シリアは放置できないことから、武器をヘズブラに供与するか、あるいはイスラエル非難を行うことであろう。あるいは自国軍を動かす、可能性もあろう。
イスラエル側はその場合、シリアのアサド大統領は、ヘズブラとの関係を否定したにもかかわらず、実際には深く関与しているではないか、と非難するであろう。そして、それはイスラエルとシリアとの間に、新たな緊張を生み出す、危険性があろう。
また、イスラエルはこのアサド大統領の発言が、二枚舌であったとして、シリアが否定している核兵器の開発についても、同じように信用ならない、と世界に吹聴することになろう。
そうなれば、イスラエルはますますシリアに対する軍事行動、軍事的圧力をかけやすくなるであろう。言ってみれば、今回のアサド大統領の発言は、イスラエル側に対し、きわめて不利な言質を、与えてしまったということにはならないか。
アサド大統領はイスラエル側の、軍事攻撃を恐れ、トルコの仲介でイスラエルとの間に、間接交渉を進めてきているが、最近になって、アメリカが介在するのであれば、イスラエルと直接交渉を行ってもいい、という姿勢を示し始めていた。
今回のアサド大統領の失言は、意外な波紋を生み出す、危険性があるのではないか。レバノンのヘズブラとの信頼関係や、パレスチナのハマースとの信頼関係が、揺らぐ可能性があるということだ。そして、シリアはイスラエルとの交渉で、不利な立場に立たされる可能性が出てきたということではないか。