イスラエルのオルメルト首相は、すでに任期も終わりに近づき、まさにレイムダックを通り越し、北京ダック状態に近づいているようだ。
そのオルメルト首相がここにきて、シリアとの和平に対して、積極的に動き出している。トルコが仲介する、間接交渉を継続するばかりではなく、どうやら直接交渉に乗り出す、可能性が出てきている。
仲介役のトルコ政府は、以前からイスラエルに対し(シリアに対しても)、当事者同士の直接交渉を提案していたが、イスラエル・シリア双方は、自国内の政治的な事情から、なかなか踏み出せないでいた、といういきさつがある。
では何故、この段階に入ってオルメルト首相は、シリアとの直接交渉に乗り出そう、と考え始めたのであろうか。それは、イスラエル国内の不安定な状況の危険さに、気がついたからではないか。
イスラエルは、ガザのハマース、レバノンのヘズブラ、シリア、イランとの敵対的な関係から、イスラエル国民の多くが、自国は何時、これらのいずれかの国よって、急襲されるか分からない、という不安が広がっているのだ。
そうした不安な心理状態が長期化すると、不安に慣れるという場合もあるが,不安が高じていき、先制攻撃をすべきだという判断が、国民の間に広がり、ついには、政府も同様の判断を、下してしまう危険性がある。
すでに、ガザのハマースへの対応については、国民の間に広がった不安と、そのことによる政府への不満が、閣僚の多くをして、ガザ侵攻、ハマース打倒の方向に、向かわせている。
それに加え、イスラエルでは次期首相になるべくして、カデマ党の党首に選出されたはずの、ツビ・リブニ女史が首相になれずに、強硬派リクード党のネタニヤフ元首相が、首相の座に返り咲く、可能性が高まっている。これは、イスラエル国民のなかに広まる、不安が生み出した結果であろう。
トルコはこうしたイスラエル国内の状況を理解し、それをシリアに根気強く説明し、和平に向けてリードしていくべきであろう。少なくとも、トルコにはイスラエルとシリアとの間に、戦争を起こさない最大限の努力を、払ってもらいたいものだ。