パレスチナ社会では、マハムード・アッバース議長が率いるファタハと、ファタハが牛耳るパレスチナ自治政府よりも、イスラム主義のハマース組織の方が、大衆の強い支持を受けている。
その結果、2004年と2005年に実施された西岸地区の選挙で、ハマースの候補者が多数当選し、地方議会の議員や、知事、市町村長に当選している。たとえばマハムード・アッバース議長の率いる、ファタハが強いとされる西岸のナブルス市、ラマッラ市、アルビーレ市、カルキリヤ市、ベツレヘム市などでは、ハマースの議員が議会の多数を占めている。
マハムード・アッバース議長はこうした事情を踏まえ、来年1月9日で切れるパレスチナ自治政府議長職の期限切れの後も、選挙を実施せずに、そのまま居座るつもりでいる。もちろん、ハマース側は1月9日が過ぎた後は、マハムード・アッバース議長がパレスチナ自治政府の議長としてとどまっても、これを認めないつもりでいる。
マハムード・アッバース議長派のファタハは、これを避けるために、ハマースの議員を500人以上逮捕し、取調べを行っている。ファタハの説明によれば、西岸地区で混乱が生じることを、避けるためだということだ。
ハマースのメンバーで議員になった者や、市町村長になっている者多数を、イスラエル軍も逮捕し投獄している。
ファタハ側はハマースがガザでの選挙を認めない以上、西岸で選挙を実施する必要がないし、マハムード・アッバース議長もそのまま、現職にとどまれるのだ、と説明している。
しかし、ガザで選挙を実施すれば、ファタハが大敗北を喫することは、いまからでも予測できることだ。したがって、ガザで選挙が出来ないというのは、あくまでもファタハ側の口実にすぎまい。
問題は、来年1月9日のパレスチナ自治政府議長の期限が切れた後に、ファタハとハマース支持者が、西岸で武力衝突を起こすことだ。その結果、イスラエル側はパレスチナには、交渉できる相手がいないとして、イスラエル・パレスチナの和平交渉は、延期されることになる。イスラエルにとっては「漁夫の利」という結果になるのではないか。
しかも、パレスチナ人同士が武力対立することのより、相当の死傷者が出ることも予想される。加えて、経済もますます悪化の一途をたどるということであろう。それがパレスチナ大衆の上に重くのしかかってくるということだ。