最近、イスラエルの専門家が、興味深い論文を書いている。それによれば、,パレスチのガザ地区を支配しているハマースの中に、分裂が生じているということだ。
あるいは、ハマース内部に強硬派が台頭しつつある、と言うべきかも知れない。彼の指摘によれば、ハマース内部にアルカーイダと極めて緊密な関係にある、サラフィー派が台頭しているというのだ。ハマースの傘下に、戦闘組織のイザッデーン・アルカッサーム組織が存在することは、すでに知られて久しい。このイッザッデーン・カッサーム組織は、ハマース内部のサラフィー派であり、イスラエル領土内へのミサイル攻撃などで知られている、強硬な武闘派組織だ。
もともと、ハマースはエジプトで始まったムスリム同胞団の、パレスチナ人メンバーによって結成された、反イスラエル組織であり、どちらかといえば、穏健な対イスラエル闘争を、目指してきたものだった。
したがって、彼らは当初、武力を用いてのイスラエルに対する闘争は行わず、投石による抵抗を貫いてきていた。しかし、イッザッデーン・アルカッサームの台頭により、ハマースの闘争方式は、次第に激化してきている。最近では、ガザから発射されるミサイルが、イスラエルの南部の街、アシュケロンにまで到達するようになってきているのだ。
ハマースは強硬な立場を維持しながらも、これまで、イスラエル側との間に、戦術的停戦などを行ってきているが、その都度激しい非難がアルカーイダから、ハマースに対して発せられていた。それは、ハマース内部の強硬派サラフィー・派(イッザッデーン・アルカッサーム)の、アルカーイダへの働きかけの結果だという判断が、イスラエルの内部で定着してきている。
サラフィー派がハマース内部で拡大していることは、ハマースの今後の動向に、大きく影響してくることが懸念される。イスラエルの分析によれば、このガザのサラフィー派は、西岸地区のラマッラに居住する、サウジアラビア出身のサラフィー派イスラム学者との、関係が深いということのようだ。
さて、ハマース内部のサラフィー派の台頭についての、イスラエル人専門家の論文のごく一部をご紹介したところで、一体これは何を意図しているか、ということについて考えてみたい。
イスラエル政府は今後、ハマースをこれまでのように、全面否定するのではなく、ファタハとほぼ同等に対応していこう、と考え始めているのではないか。マハムード・アッバース議長の任期が来年の1月で切れるが、彼は任期を非合法に延長しようと考えており、そのことは少なからぬ反発を、パレスチナ内部に起こそう。
ファタハに対する支持が低下していることも、イスラエルをしてハマースへの対応を考えさせているのではないか。もちろん、こうした事情をよく知っているアラブ諸国は、すでに硬軟両方の対応をハマースに対して行っている。
来年はハマースとイスラエルとの、新たしい関係のスタートの年になるかもしれない。少しうがった見方かもしれないが、それに先立って、ハマース内部が強硬派と穏健派から成り立っていることを、イスラエル国民に印象づけるのが、この論文の狙いではないか。