不安定化しているエジプト社会

2008年11月26日

 

 数日前には、カイロのアインシャムス地区で、コプト・キリスト教徒とイスラム教徒の衝突事件が起こり、双方が発砲し、警察が催涙弾を発射したために、負傷者多数が出るという事件が起こっている。同時に、その近くにあった車や商店が破壊されたり、放火されるということも起こった。

 続いて、今度はカイロからだいぶ離れた、ナイル川の上流の町アスワンでも、事件が起こっている。現地警察の説明によれば、麻薬の運び人であるアアブドルラーズク(40歳)なる人物の家宅捜査を、警察が行おうとしたところ、拒否され発砲したというのだ。

 しかし、このアブドルラーズクなる人物と、警察とのトラブルについて、現場を見ていた人物の証言によれば、警察が踏み込もうとしたのに対し、アブドルラーズクが裁判所からの家宅捜査の許可証の提示を求め、警察が提示しないのでドアを閉めた、というのだ。

 これに対し、警察側が家宅捜査許可証を提示せずに、ドアを閉められたために、ドアの外から発砲し、アブドルラーズクは死亡したというのだ。アスワンの住民の証言によれば、アブドルラーズクは警察が主張するような、麻薬の運び人ではなく、単に鶏を商っている人間に過ぎないろいうことだ。

 アスワンではこの出来事のニュースが、たちまちにして広がり、数千人が抗議集会を始めたということのようだ。その集団に対し、警察が実弾や催涙ガス弾を撃ち込み、そのために、多数が負傷しただけではなく、また一人が犠牲になった。彼の名はヤヒヤ・アルマグレビーで59歳だった。ヤヒヤ・アルマグレビーが死亡したのは、病院に運び込まれてからのことだった。

 エジプト社会がいま、簡単に燃え上がるような、危険な状態にあることが、これでお分かりいただけたろう。カイロのアインシャムス地区で起こった、コプト・キリスト教徒とイスラム教徒の衝突にしろ、アスワンでの事件にしろ、住民や警察が冷静であれば、起こりえない出来事ではないのか。

 こうした事件は、アスワンやカイロ市内のコプト・キリスト教徒とイスラム教徒が隣接して居住している地区だけではなく、他の地域でも何時起こるかわからない。エジプトはいま、そのような危険な状況にある、と考えたほうがよかろう。

 エジプト人の富裕層は、今ではカイロの都心には住んでいない、多くは、カイロの郊外の、高級住宅街に移り住んでいるのだ。日本人駐在員たちが、高級住宅街と勝手に解釈している旧高級住宅街は、今では逆に貧困住宅街になっており、危険な暴発が何時起こるかわからない、地域の範囲内にあることを知るべきであろう。