アメリカの対応に不安なイスラエル

2008年11月25日

 

 イスラエルはいま、三つの大き問題を抱え込んでいる。ひとつはイランの核開発と、それに対する対応だ。次いでシリアとの和平の実現、そしてパレスチナ問題だ。

 これらの問題は、何も今に始まったものではない、といえばその通りなのだが、実は時間が迫っており、一定の決断を早急に下さないことには、取り返しのつかないことになってしまうのだ

 まずイランの問題から説明しよう。イランが来年に入った段階で、ウラニュームの濃縮作業がある程度の成果を挙げ、原子炉に燃料棒が挿入されることになっているのだ。そうなれば、原子炉に対する空爆を、実行することは不可能になろう。

 それは、技術的に出来なくなるのではなく、国際世論を敵に回すことになるからだ。それは、核の燃料棒が挿入された、原子炉を空爆することにより、放射能がばら撒かれることになるからだ。

 結果は、イラン国民だけではなく、湾岸諸国やイランの東部に位置する、アフガニスタン、パキスタン、インドの一部までもが、被害をこうむる危険性があるのだ。

 しかし、だからといってイランが核開発を進めることを、放置しておいたのでは、やがてイランが核兵器保有国になり、その核兵器が攻撃に使われる先は、イスラエルが第一候補と考えられるからだ。

 したがって、イスラエルはイランが核燃料棒を、挿入する前の段階で、どうしてもイランの核施設を攻撃する必要があるのだ。しかし、ブッシュ政権ですら躊躇していた、イランに対する攻撃をオバマ政権になった場合、すんなりと認めてくれるとは考え難い。

 イスラエルがイランを先制攻撃した場合、必ずアメリカが続いてイランに攻撃してくれることが、望まれているのだ。イスラエルはどうしても、先制攻撃を出来るだけ早い段階で行いたいと思うが、それはアメリカ政府との関係を、劣悪なものにする危険性があるのだ。

 シリアとの関係でも、シリアが次第に長距離ミサイルをはじめとする、最新兵器を増やしてきており、もしイスラエルとの間に戦争が起これば、イスラエルにとっては、非常にリスクの高いものとなろう。シリアとの和平を実現するためには、最低限、イスラエルはゴラン高原をシリア側に返還しなければなるまい。しかし、それもアメリカの安全に対する保証がなければ、決断できないことだ。

 そして、パレスチナとの間でも、イスラエルは非常に難しい状況にある。マハムード・アッバース議長の率いる、ファタハを中心としたパレスチナ自治政府の、パエスチナ人の間での評判は劣悪であり、マハムード・アッバース議長の、議長としてとどまれる期限が、来年の1月9日をもって終わる。当然のこととして、パレスチナでは選挙が行われ、新しい議長が選出されることになるのだが、現段階で選挙を実施した場合、マハムード・アッバース議長はハマースの前に、敗北するとイスラエルは予測している。それだけマハムード・アッバース議長のパレスチナ人の間での、評判は悪いということだ。その主因は汚職にあるのだが。

 そうなると、これまでイスラエルがパレスチナ自治政府との間に進めてきた、パレスチナ国家とイスラエル国家が共存するという、2国家解決案は根底から崩れてしまう。ハマースは2国家案を拒否しているからだ。

 したがって、イスラエルはパレスチナが選挙を実施することを、なんとしても阻まなければならないということになるが、それにはアメリカが反対する可能性が高い。アメリカはあくまでも民主的なパレスチナの代表者を、民主的な手段で選出することを、支持する可能性が高いからだ。

 つまり、イスラエルはイラン、シリア、パレスチナの三つの問題を抱えており、その対応をめぐり、アメリカと利害が対立する危険性を感じているということだ。しかも、これら3国との問題解決には、絶対的にアメリカの協力が不可欠なのだが。イスラエルはいま、これまで直面したことのない種類の、問題をアメリカとの間に抱え込んだということであろうか。