イスラエルの国会クネセトの議員の、アビドール・リーバーマン氏がエジプトの大統領に対して「地獄へ落ちろ」という、常識では考えられない悪口を吐いた。
これはいったい何故なのかという疑問に対し、当初の説明では、イスラエルの首相や大統領が何度もエジプトを訪問しているにもかかわらず、エジプトの大統領は故サダト大統領が訪問しただけであり、ムバーラク大統領は長い大統領就任期間の間で、一度しかイスラエルを訪問していないことだった。
しかし、それにしても、あまりにも乱暴な発言だっただけに、それ以外にも理由があるのではないか、と思っていたところ、あるイスラエルの評論家が、エルサレム・ポスト紙で、実に明快な説明をしてくれている。
その評論家の説明によれば、アビドール・リーバーマン氏はロシアから移民してきたイスラエル人だ。そして彼が所属しているイスラエル・ベイトヌ党は、ロシアから移民したロシア系イスラエル人によって、結成されている政党だ。したがって、彼の言動はロシアからの移民者たちに、受けるようになっているというのだ。
ちなみに、イスラエル・ベイトヌ党はクネセトに11議席を有しており、次の与党連合の結成には、大きな勢力を持っている、重要な政党だということだ。
好意的に考えれば、彼は有権者の支持を得られるような言動をする、必要があるということだ。イスラエル国民になったとはいえ、ロシアで生まれロシアで育った人たちは、ロシア人と同じような言動をするということだ。
そして、移住者のほとんどは、ロシアで生活していたこと、そしてチェチェン問題をつぶさに見ていたということだ。ロシア国内のイスラム教徒である、チェチェン人たちが行う反政府闘争は、強い印象で彼らを、捉えていたということだ。
そして、彼らの目には、いまイスラエル国内に居住する、アラブ・イスラエル人の行動が、チェチェン・ゲリラとダブって見えているということだ。したがって、放置すればアラブ・イスラエル人の反政府活動は、次第に活発さを増し、しかも危険なものに、発展して行くということだ。
したがって、ロシアから移住したロシア系イスラエル人たちは、ロシアのプーチン大統領のように、イスラエルの政治家も、アラブ・イスラエル人に大して、断固とした対応をとるべきだ、ということになる。そうしたロシア系イスラエル人の要望に応える発言のひとつが「ムバーラクは地獄に落ちろ」だったということだ。
ムバーラク大統領が一度しか、イスラエルを訪問していないのは、エジプトが和平をイスラエルと締結したとはいえ、エジプトはチャンスがあれば、イスラエルを攻撃したいと考えているからだということも、アビド-ル・リーバーマン氏に、過激な発言をさせたということだ。
イスラエルは来年の2月に、選挙が予定されている。その前から、アビドール・リーバーマンは彼の政党を、支持する有権者たちに対して、強い政治家の印象を、持たせようとしたということのようだ。