イラクの北部クルデスタン地区の代表者である、マスウード・バルザーニ議長が、アメリカ軍の基地受け入れ意向を発表した。
彼は、もし、イラク中央政府がSOFA(治安維持のための地位協定)に合意しないのであれば、アメリカ軍が基地をクルド地区に、建設することを認める、と語ったのだ。しかも、この基地の設置については、クルド地区の場合、SOFAの合意を必要としない、とも語っている。
つまり、何の条件も付けずに、アメリカ軍を受け入れる、ということだ。こうした発言がクルド地区の代表者である、マスウード・バルザーニ議長から出てきたのには、それなりの裏がある。
1970年代以降、イラクのクルド地区のクルド人代表者と、アメリカやイスラエルの情報機関との間には、特別な関係があった。そして、1991年の湾岸戦争後は、より強固な協力関係が構築され、クルド地区はアメリカ軍の庇護の下で、特別区のような状態にあった。
述べるまでもなく、結果的にはクルド地区が、他のイラクの地区とはかけ離れた、安全で発展する地区となってきた。
しかし、最近、アメリカ政府が要求する地位協定に対し、多くのイラク人が反対するようになり、合意は遅延に継ぐ遅延をしてきている。それどころか、最終的では合意されないのではないか、という観測すら出てきている。
そうなれば、あわてるのはクルド地区住民だ。アメリカ軍を始めとする、合同軍の駐留期限は、国連の定めた12月末で切れてしまうのだ。そうなると、アメリカ軍のイラク駐留の正当性はなくなり、早晩全面的な撤退を、しなければならなくなるだろう。
そうなれば、イラク国内はスンニー、シーア、クルドが、三つ巴の戦いを展開することが、十分予測できる。そこで、マスウード・バルザーニ議長はクルド地区に、アメリカ軍の基地を建設する提案をした、ということだ。もちろん、それはクルド地区の安全を、守ることが目的だ。
しかし、このマスウード・バルザーニ議長の発言に対し、イラク国内の宗教指導者や政治家の間から、激しい反発が始まっている。あるいは、マスウード・バルザーニ議長は焦りから、自分の手で大きな墓穴を、掘ってしまったのかもしれない。
ただ、アメリカ政府はイラク侵攻時依以来、イラクを三分割することを考えに、入れてきているということがあり、あるいはこのクルド地区に、アメリカ軍の基地を設置するという、マスウードバルザーニ議長の提案が、その決断をさせるかもしれない。
しかし、それはイラク国内で、新たな武力衝突の種になることは、間違いあるまい。