治安協定合意困難に頭を抱える米

2008年10月26日

 

 アメリカ軍がイラクに何時まで駐留し続けられるか、いま非常に困難な状況にあるようだ。アメリカ軍は駐留を希望しているが(兵力を削減して)、イラク側がなかなか治安協定(SOFA)にサインしないのだ。

 問題になっている部分は、アメリカ兵とアメリカが雇用する民間軍事会社の社員に対する、逮捕権をイラク側は放棄したくないということに、こだわっているためだとされているが、そうではあるまい。

 イラク国民のほとんどが、アメリカとの治安協定(SOFA)合意に反対しているのは、アメリカ軍がイラク国内に駐留することを、望んでいないからであって、条件によっては認める、という種類のものではあるまい。

 シーア派にしろスンニー派の国民にしろ、外国の軍隊によって自国が支配される、駐留が何時までも続くということを、きわめて不名誉なことだと考えているからだ。それは、これまでのアメリカ軍の、不適切な行動によるところ大であろう。

 アメリカ軍兵士による家宅捜査、その時の婦女子に対する振る舞い、金品の略奪ときわめて下品な行動をとりすぎたため、イラク人はアメリカ兵もアメリカ人も、大嫌いになっているのだ。

 アメリカとの治安協定が結ばれなくて一番困るのは、イラク国民のなかではクルド人であろう。彼らの安全と現在の繁栄は、アメリカ軍によってクルド人が守られているからであり、アメリカ軍が撤退したと同時に、現在の状況が瓦解していく危険性があるのだ。

 だからこそ、ズイバリ外相(クルド人)はこの治安協定の重要性を主張し、「もし合意に至らなければ、アメリカ軍は出て行ってしまう。そうなれば安全は保障されないし、テロリストが政府も国民もターゲットにする。もちろん政治も経済も破滅的な状況になろう。」と警告している。

 確かに、アメリカ軍の撤退後、イラクはきわめて不安定な状況になろう。これまでアメリカ側はあらゆる圧力を、イラク政府にかけてきたが、いまだに治安協定(SOFA)の合意は成立していない。

 以前にも書いたが、マリキー首相はアメリカと合意を結ぶことにより、イラク国民から裏切り者、売国奴といわれることに耐え、自身の地位と生命と財産を守るのか、あるいは国家の名誉を守ることによって、国民から喝采を受けるのか。

 その難しい選択を迫られているのだ。しかも、この選択にはどちらを選んでも、肉体的死か人格的死が待ち受けているのだから、マリキー首相としても、できるだけ結論を先延ばししたい、というのが本音ではないのか。