イラクの首都バグダッドの、シーア派居住地域で、大規模な反治安協定デモが行われた。この反治安協定デモとは、露骨に言えば、アメリカが永久的にイ、ラクに軍事基地を持ち、実質的にイラクを、植民地下に置くというものだ。
今年6月には、イラクの外務次官が訪日し、日本政府の例について、聞き取り調査をしていった。その時、私が彼らにどう日本の実情を、語ったのかについては、すでに報告している。治安協定そのものについては、反対しないが、アメリカ側の希望するような、一方的な形のもであっては、ならないだろうということだった。
しかし、その後も、アメリカ側の希望する、治安協定の内容に、あまり変化がなかったのだろう。結果的には、今年7月には合意が予定されていたにもかかわらず、現在なお、治安協定は成立していない。
そればかりか、治安協定交渉の中で、イラク国民の反発が強まったことから、マリキー政権はアメリカに対し、より明確で短期のアメリカ軍駐留と、その後の全面撤退を、求めざるを得ないようになってきている。
今回、ムクタダ・サドル師が主導する、バグダッドで行われたデモでは、デモ参加者が「バグダードホッラ、アムリーカーバッラ=バグダッドは自由だ、アメリカは出て行け」というシュプレヒコールが、繰り返されていた。つまり、イラク国民多くが、アメリカ軍の駐留に完全に、そっぽを向いた形になったということだ。
一部の、冷静なインテリイラク人たちは、アメリカ軍の近い将来の全面撤退が、危険なことはわかっている。彼らは、段階的にアメリカ軍が、イラクから撤退していくことを、望んでいるのだが、その冷静な声は、次第に聞こえなくなっていこう。
そして、その後には、アメリカ軍のほぼ全面的な撤退があり、イラク国内は、シーア・スンニー・クルドの間で、内戦状態になる危険性が高い。
そうした懸念を、イラクの全ての派が、抱いているのであろう。そのことは、トルコのエルドアン首相のバグダッド訪問や、最近、バグダッドを訪問したトルコ代表団に対する、イラク側の丁重な対応で感じ取れる。
つまり、アメリカ軍に出て行ってほしいが、その後にイラクは不安定で、危険な状態になる、アメリカに代わる安定化のための、外国軍のイラク国内駐留が、どうしても必要だということであろうか。
しかし、トルコはPKKの攻撃などで、冷静さを失って、イラクに軍事侵攻するようなことが、あってはなるまい。できるだけPKK問題は、イラク側やクルド自治政府側に、解決させるように仕向け、トルコは、できるだけPKK対応では、PKKの拠点に対する空爆に、とどめるべきであろう。
トルコ軍はできるだけ、PKKに対する反撃を、限定的なものにし、大規模化してはならない、ということだ。そして、イラクのシーア、スンニー、クルドの各派が、イラクの国内安定維持に、トルコの力をどうしても借りたい、という合意に達した後に、初めてトルコ軍はイラク国内に、駐留すべきであろう。しかも、その駐留トルコ軍は、極めて限られた、規模のものであるべきだろう。
トルコがイラクの隣国であるということを考えると、将来、イラクに駐留するトルコ軍は、あくまでも限定的で、形式的な規模のものであるべきで、イラク軍を支え、支援、指導することを主たる目的とし、そのことにとどめるべきであろう。
アメリカは何とか、トルコ軍をイラクに引き込みたい、と思っているのではないかと思われるが、それは結果的には、アメリカにとっても、トルコにとっても、イラクにとっても、失敗に終わる可能性が高かろう。アメリカは冷静に、トルコを中東の主導国になるように、支援していくことこそ、考えるべきであろう。トルコにはその能力が、十分にあるのだから。日本のトルコに対する対応も、こうした認識の上から、なされるべきであろう。