イラクの厚生省が発表したところによれば、イラクのクルド地区にある、ドホーク県のズイルヤン・オスマンという場所で、炭素病が発生したということだ。罹病した人の数は、すでに37人に上っているということだ。
そもそも炭素菌兵器とは、細菌兵器として培養されたものであり、自然の中に存在する炭素菌では、なかなか発症しないもののようだが、イラク国内では1980年代以来、今回のケースが、初めてのことだということだ。
細菌兵器の開発は、それが自国民に被害をもたらす危険性があり、しかも目に見えないものであるだけに、核兵器や毒ガス兵器よりも、管理が困難であり、炭素菌を兵器のレベルまで開発するには、相当の科学技術と、設備が必要なのではないか。
アメリカはイラクに対する、攻撃を正当化するために、WMD(大量破壊兵器)をイラクが開発していると主張し、そのWMDのなかには、核兵器や化学兵器と並んで、炭素菌兵器が上げられていた。しかし、現実にはそのいずれも、イラクからは出てこなかったのではないか。
もちろん、これらの兵器の一部は、開発段階にあったものもある。サダム体制がアメリカとの緊張が高まるなかで、廃棄したものもある。
では炭素菌を現在、実際に使える形で、所持していると思われる国は、どこかと考えてみると、アメリカ、ロシア、中国などの大国だけに、限られているのではないのか。それ以外にも、考えられないことはないが、危険極まりない兵器であると同時に、その所持がばれた場合、国際的な非難を浴び、制裁を加えられる危険があろう。
では今回の場合は、なぜ炭素菌による被害が、イラクのクルド地区で発生したのであろうか。もちろん、炭素菌を誰かが使ったという前提だが、以下のことが想像できるのではないか。
:サダム体制下にあったスンニー派バアス党の残党が、炭素菌をひそかに隠し持っていて、クルド
人攻撃に使った。
:クルド問題を抱えている国が、炭素菌兵器を開発していて、クルド人に対して使った。(例えばク
ルド人とイランとの間には、PJAK(クルドの反イラン組織)問題がある。
:大国のいずれかが、なんらかの目的で使った。
:自然の炭素菌が今回の被害を生み出した。
ここにあげたいずれにも確証はない。もちろん犯人探しをするつもりもない。したがって、あくまでも推測の範囲にとどまるしかないが、もし人為的なものであったとすれば、放置できない問題であろう。戦争には戦争なりのルール、人道の精神があってしかるべきだと思うのだが。